国籍詐称などを追及されていたフィリピン北部バンバン市のアリス・グオ前市長が逃亡先のインドネシアで逮捕され、強制送還された。上院での追及が再開されているが、マネーロンダリング(資金洗浄)への関与が浮上し、中国系マフィアとのつながりも疑われている。国外逃亡を巡っては入管の怠慢のほか、元国家警察長官の関与も指摘されるなど、フィリピンの腐敗体質も改めて浮き彫りとなった。(マニラ福島純一)
グオ容疑者は7月に公の場から姿を消し、当局が行方を追っていた。9月に国外に逃亡していたことが発覚。国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)などに協力を求めた結果、シンガポールやマレーシアなどの東南アジアを転々とし、インドネシアに潜伏していることが判明。現地警察によって逮捕され、今月6日に強制送還された。
中国スパイ疑惑が指摘されていたため、中国への逃亡の懸念もあった。元国家警察長官のデラロサ上院議員は、中国に向かわなかった理由として、賭博が禁止されている中国に向かえば、違法賭博への関与で逮捕される可能性があったからだとの見方を示した。実際、中国政府はマルコス大統領に中国系のオンライン賭博事業を禁止するよう求めていた。
そのため現状では中国スパイ疑惑よりも、中国系マフィアなどの犯罪組織との関係に注目が集まっている。フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター(POGO)と呼ばれる中国人向けのオンラインカジノの拠点を、マネーロンダリングに利用していたとの見方が強まっており、グオ容疑者の資産や銀行口座は政府当局によって凍結された。
東南アジアに逃亡した理由としては、タイ、ミャンマー、ラオスの三国が接するゴールデントライアングルを目指していたとの見方もある。捜査当局はこれらの国々がフィリピンと犯罪者引き渡し条約を結んでいないことを利用し、再び違法賭博事業を立ち上げる計画があったのではないかとみている。
強制送還後に非公開を条件に行われた上院の調査委員会でグオ容疑者は、バンバンで行われたPOGO活動について、自身はあくまでも利用された被害者の一人であり「首謀者」はほかにいると証言。これまでの強硬姿勢を崩し、POGO活動の背後にいる人物の特定に協力する意思を示した。
グオ容疑者はこれまで殺害の脅迫があると主張し、公聴会での情報提供を拒否していた。国外逃亡も殺害予告が理由だと話していた。
これまで国籍詐称やスパイ疑惑ばかりがセンセーショナルに報じられ、注目を集めてきたが、このような活動を長年にわたり展開できた背景にはフィリピンの行政機関の腐敗体質があることは間違いない。容易に国外逃亡できたことも国境管理の脆弱(ぜいじゃく)さを露呈し、政府機関の課題が改めて浮き彫りとなった。
グオ容疑者の国外逃亡やPOGO施設の中国人従業員に対するビザの問題などの責任を負わされる形で、入国管理局のタンシンコ局長がマルコス大統領によって解任されたが、根本的な腐敗の改善につながるかは不明だ。
また元国家警察長官の誰かが、国外逃亡を多額の賄賂と引き換えに手助けした疑惑も浮上しており、マルビル国家警察長官が24人の元長官を対象に調査する方針を示している。
このような政府の腐敗体質が再び利用され、国際犯罪の舞台とならないためにも、フィリピン政府には国籍管理に携わる公職者の資質審査の厳格化など、より一層のガバナンスの改善が必要だ。
グオ容疑者のケースは氷山の一角にすぎない可能性もあり、再発防止のためにも徹底した犯罪ネットワークの解明が政府に求められている。