フィリピンと中国が領有権を主張する南シナ海で、中国の挑発や妨害行為がエスカレートし両国の緊張が再び高まっている。同海域の上空で中国機によるフレア(火炎弾)の発射によるフィリピン航空機への威嚇行為や、中国海警局の船による補給船への体当たりなどが多発している。両国はアユンギン(中国名・仁愛)礁での衝突激化を緩和するため「暫定合意」に至ったばかりであり、フィリピン政府からは失望の声も上がっている。(マニラ福島純一)
国軍によると8月8日にスカボロー礁(中国名・黄岩島)空域で、中国軍の戦闘機がフィリピン空軍機の進路に向けてフレアを発射する危険行為を行った。さらに19日にも同じ海域で漁業水産資源局の小型機が、中国軍機からフレアを発射される妨害行為を受けたのに続き、22日にも哨戒飛行中の小型機に対し中国が建設した人工島の施設からフレアが発射されたという。
フレアは攻撃用ではなく、赤外線追尾ミサイルを回避するための熱源として使用される。しかしバードストライクと同様にジェットエンジンやプロペラが破片を巻き込み事故につながる可能性があり、ほかの航空機の近くでの使用は極めて危険な行為であることから、フィリピン政府は「すべての危険行為を全面的に停止するよう」中国に求めた。
さらに19日にはサビナ礁を補給任務のため航行中のフィリピン沿岸警備隊の巡視船が、中国海警局の船に意図的に衝突され船腹に直径1㍍近い穴が空く深刻な被害を受けた。25日にも同礁では、漁船への食料などの補給活動をしていた漁業水産資源局の船が、中国海警局の船に接触され、放水を受け損傷している。
フィリピンと中国は先月、アユンギン礁でフィリピンの防衛拠点となっている座礁船への補給活動を巡り、危険な衝突が多発していることを受け、緊張緩和のための暫定合意に至ったばかりだった。しかし今回の一連の危険行為が再発したことで、この合意を見直す可能性もあると外務省当局者が述べるなど、政府内には失望も広がっている。
中国のフレア発射に対しメリーケイ・カールソン駐フィリピン米大使は声明で「自由で開かれたインド太平洋地域を損なう挑発的かつ危険な行動を止めるべきだ」と中国を非難し、フィリピンへの支持を改めて強調した。また在フィリピン日本大使館も「地域の緊張を高める行為が繰り返されていることに対し、深刻な懸念を表明するとともに、緊張の緩和を強く求める」と声明を発表。平和的解決にコミットメントを示しているフィリピン政府の立場を高く評価した。
テオドロ国防相は27日、マニラで開催された米インド太平洋軍との会議の場で、南シナ海での度重なる威嚇行為を念頭に、中国は「国際平和の最大の破壊者」と強く非難。さらに中国が主張する南シナ海の広大な領有権は「何の根拠もない」と指摘し、断固たる行動を取るよう東南アジア諸国連合(ASEAN)の指導者に呼び掛けるなど、国際的な圧力が必要であることを強調した。
南シナ海は世界の主要な航路が通る戦略的な海域となっている。この海域の不安定化はアジア全体の安全保障や経済に広範な影響を与える可能性もあり、日本を含めた同盟国の支援が必要だ。