比マニラで台風被害深刻 巨額予算も対策進まず、政府に批判

フィリピンのマルコス大統領=4月15日、 マニラ(EPA時事)

強い勢力の台風3号(フィリピン名カリーナ)の接近により、マニラ首都圏を含むルソン島の広い範囲が大雨や強風に見舞われ、甚大な被害が出た。特にマニラ首都圏では莫大(ばくだい)な洪水対策予算にもかかわらず、以前より広い範囲で洪水が発生。数日にわたって都市機能が麻痺(まひ)するなど、市民生活に大きな影響を及ぼしたことから、政府への批判も高まっている。(マニラ福島純一)

国家災害リスク削減管理評議会によると7月30日の時点で、台風3号による被災者は480万人に達し、死者は39人に上った。行方不明者は6人。依然として10万人以上が避難所生活を強いられている。インフラ被害は42億ペソ(約108億円)に達し、そのうち中部ルソン地方の被害が最も甚大で16億ペソを占めた。破壊された家屋は2000件以上に達した。

また教育省は、被害を受けた公立学校1200校で、7月29日に予定されていた新学期の開始を8月5日に延期すると発表した。

台風3号はフィリピンに上陸するコースをとっていなかったことから、当初はそれほど警戒されていなかった。マニラ首都圏でも特に避難勧告などは出ていなかった。しかし台風に刺激されたモンスーン(季節風)により予想外の大雨がもたらされ、マニラ首都圏では7月23日ごろから各地で洪水が発生。政府は数日にわたって政府機関の業務と公立学校の授業を休止した。

一部地域ではバスが立ち往生するほどまでに水位が上がるなど深刻な洪水に見舞われ、都市機能は完全に麻痺状態となり、7月24日には首都圏の首長で組織されるマニラ首都圏議会が非常事態を宣言するに至った。

洪水に見舞われる直前の7月22日に行われた施政方針演説でマルコス大統領は、過去2年間で5000件に達する洪水対策事業が完了したと強調したばかりで、ソーシャルメディア上などでは批判の声が上がった。

これに対しマルコス氏は、不適切なごみ投棄と気候変動により洪水対策が効果を発揮しなかったと主張。国民に適切なごみの処理を呼び掛ける一方、洪水対策の見直しも必要だと強調した。

効果のない洪水対策には上院議員からも厳しい声が相次いだ。グレース・ポー上院議員は「納税者は豪雨のたびに病気の危険を冒し、洪水の中を歩くことを強いられている」と指摘。公共事業道路省に割り当てられた2400億ペソの洪水対策予算に疑問を呈した。国防省や社会福祉開発省などの予算総額を上回り、以前から問題視されていた。上下両院でこの洪水対策予算について調査をする動きも強まっている。

公共事業道路省はこれらの批判を受け、10年以上前に策定された洪水対策のマスタープランの達成率が30%未満であることを認めた。このプランは2012年にアキノ政権下で承認されたもので、完成は35年が予測されているが、コロナ禍に伴う資材の入手困難などにより遅れが生じているという。

また洪水が悪化した原因としては、気候変動のほか、マニラ湾で進行中の大規模な埋め立て事業もやり玉に挙がっており、より複雑さを増している。より迅速で包括的な洪水対策が求められている。

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