フィリピンでは「POGO」と呼ばれる中国系のオンラインカジノ施設が、詐欺や人身売買など犯罪シンジケートの拠点と化し社会問題となっている。特に最近では中央政府の監視が行き届かない地方で施設を建設し、大量の中国人労働者を違法就労させるなど大規模化している。中国政府はフィリピン政府に対しPOGOの禁止を求めているが、税収減などの懸念から政府内でも意見が割れている。(マニラ福島純一)
POGOとは「フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター」のことで、フィリピン当局が認可を出した中国系オンラインカジノ事業のことだ。マニラ首都圏のマンションやオフィスビルを貸し切るなどして運営され、その周辺には中国系の日用品店や飲食店が開店し、「中国人村」が形成されるほどの勢いで増殖していった。
しかし、POGO運営を隠れみのにした従業員に対する人身売買、拷問や殺害もいとわない身代金目的の誘拐などを行う犯罪シンジケートの存在が明るみになるなど、治安を極度に悪化させているとして社会問題に発展。上下院議会でもPOGOを問題視する声が強まった。
その後、POGO企業は政府当局の監視が行き届かない地方で土地を取得し、壁に囲まれた巨大な拠点を建設するようになった。
施設には宿泊施設のほかゴルフ場やバー、売春施設などが併設され、数千人の外国人従業員が近隣住人の目に触れることのないよう工夫されている。マニラ首都圏近隣のカビテ州では、リゾート施設があった島が丸ごとPOGO拠点に変貌し、自治体首長との癒着疑惑もうわさされる。
このようなPOGO拠点の大規模化により、最近では数百人規模の違法就労の中国人が強制送還されるケースが珍しくなくなった。当局の認可を受けず運営されているPOGO拠点は300カ所以上に達すると言われている。
膨大な数の違法就労外国人がどのようにして入国したのかについては、フィリピン政府機関に蔓延(まんえん)する腐敗体質が、このような犯罪シンジケートを招き入れているという側面も否定できない。
POGO拠点の土地取得には、賄賂を駆使して違法に取得した出生証明書やパスポートなどを使ってフィリピン人に成り済ました中国人が関与していることも分かっている。フィリピンでは外国人の土地所有は禁止されている。
POGOに認可を出すフィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)の幹部は、POGO企業の全面禁止は政府の目が届かない違法営業を加速させるだけでなく200億ペソの税収を失うことになると、そのデメリットを指摘。あくまでも規制や監視を強化する方向で健全化を図るべきだと主張した。また労働雇用省もPOGO禁止により、2万人以上のフィリピン人の雇用が失われると懸念を表明した。
しかし政府機関の腐敗を利用し各地で巨大な拠点が運営されてきたこれまでの実態を踏まえると、規制の強化による健全化は極めて難しいと言うほかない。中国人へのビザを厳格化する方針も示されていたが、同じ理由で効果は未知数だ。
一方、自国内での賭博を禁止している中国政府は6月14日、マニラの大使館を通じてフィリピン政府に対し、中国人を対象にしたオンライン賭博を運営するPOGO事業を禁止するよう改めて要請した。中国が禁止を要求する一方で、フィリピン当局が継続を求めるといういびつな構図も浮き彫りとなっている。
フィリピンが世界的なオンライン詐欺の拠点とならないよう、徹底した対策が求められている。しかし関係当局の利権が複雑に絡み合っており一筋縄ではいきそうにない。
複数の議員や関係機関からPOGOの全面禁止を求める声も高まっているが、マルコス大統領は明確な返答を避けている状況が続いている。