ミャンマーの少数民族武装組織による国軍への大規模攻勢が始まったのは、昨年10月27日だった。あれから8カ月が過ぎた。中国が停戦仲介に乗り出したものの歯止めは効かず、国軍は辺境地域の支配権を失いつつある。(池永達夫)
国軍への大規模攻勢の口火を切ったのは北東部シャン州のミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)など少数民族武装組織で、中国との国境都市ムセなどの国軍拠点を占拠した。ムセと旧都マンダレーを結ぶラーショーも国軍の支配権が及ばなくなった。
国境貿易停止に危機感を持った中国は停戦仲介に乗り出し、1月には停戦合意にこぎ着けた。
中国人民解放軍の南部戦区は今春、ミャンマー国境近くで陸空合同の実弾軍事演習を行った。衝突が続くミャンマー国軍と少数民族武装組織の双方に、1月の停戦合意を守るよう迫るシグナルだった。
だが中国の武威をもってしても、戦闘の火が消えることはなかった。さらにシャン州で始まった大規模攻勢は、辺境地域に散らばる少数民族武装組織が民主派の強硬派を受け入れる形で拡大し、燎原の火のように広がっている。
3月からカチン独立軍(KIA)が国軍への攻撃を強め、国境貿易の拠点ルウェジェを奪い、カイン州ではカレン民族同盟(KNU)がタイ国境の要衝ミャワディを占拠した。
兵士40万人のミャンマー国軍は、東南アジアでベトナム軍に次ぐ兵力を誇るものの、国土は日本の1・8倍の68万平方㌔と広大で、山間部や国境地帯の辺境地帯にまで目を光らせることは困難だ。国軍は今回の戦線拡大に対応できないまま、要衝を相次ぎ失った。
ミャンマー国軍が頼みとするのは中国だ。中国は国軍最大の後ろ盾であり、兵器供給国でもある。
ただ中国はこれまでミャンマー政府だけでなく、政府に反旗を掲げる少数民族武装組織との関係も維持してきた。これは2100㌔に及ぶ中国とミャンマーの国境を通じたプロジェクトや物流を管理するため、現場のパワーを考慮する必要があったからだ。少数民族武装組織側としては、国境を越えて中国に逃げ込めばミャンマー政府が追撃できない安全地帯を確保できるだけでなく、中国製のライフルや迫撃砲など簡単に武器調達できるメリットがあった。
ところが2021年2月のクーデター政権発足後、これまでの「二重外交」から民主派勢力が発足させた国民統一政府(NUG)を加えた「三重外交」を展開するようになっている。
だが手綱が増えれば、もつれるリスクも増えてくる。とりわけ中国がいら立ちを強めているのは、中国側からミャンマーへの物流が滞っていることだ。特にシャン州のムセからマンダレーやヤンゴンへの陸上輸送は止まったままになっている。理由はムセだけでなくラーショーも少数民族武装組織の手に落ち、旧都マンダレーへの陸上輸送ルートが中断されているからだ。
こうしたことがシャン州だけでなく、カチン州でも起きている。またタイとヤンゴン、バングラデシュとシットウエーを結ぶ陸上輸送も同様の理由で機能不全に陥っている。
ただ少数民族武装組織を勢いづかせている民主派強硬派との連携は、同床異夢の連携だ。少数民族武装組織の優先事項は、民主化ではなく「ビルマ人支配」からの脱却だからだ。