
中国のIT大手・字節跳動(バイトダンス)の子会社が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の情報流出懸念に対し厳格に対応する国がある一方、脇の甘い国が存在する。厳しく対応するのは主に西側諸国で東南アジア諸国は一部例外国を除き甘い。(池永達夫)
米国では4月下旬、ティックトック規制法が成立した。同法は運営主体のバイトダンスに対し、9カ月以内にティックトックを中国系以外の企業へ売却するよう求めている。売却できなかった場合、ティックトックは米アプリ市場から締め出され、米国内での利用が不可能になる。
同法は、米国のティックトック利用者の個人情報の中国当局への流出が「安全保障上の脅威」だと認定した。
こうした危機感は西側諸国で共有されており、カナダやオーストラリアは政府支給デバイス全てで利用禁止、英国は政府閣僚や公務員のデバイス全てで利用禁止、フランスは政府職員の業務用デバイスで利用禁止措置を講じている。
一方、アジアではインドがティックトックを含む中国製アプリ多数を利用禁止にしている他、台湾が政府支給デバイスでティックトックを含む中国製ソフトウエアを利用禁止にしている。またインドネシアはティックトックに対し制限的措置を講じている。インドネシア国内でティックトックの動画を楽しんだり投稿は許容しているものの、SNS上での決済手続きは禁止した。インドネシアでは小売業者らがライブ配信を媒体に商品説明を行い、視聴者がそのままアプリ内で購入手続きや決済ができる通販機能が人気となっていた。これに対しインドネシア政府が昨年9月、SNS上での商品購入の決済手続きを禁止したことを受け、ティックトックもインドネシアでの通販機能停止に追い込まれた。
その他の東南アジアでティックトックはなんら規制対象にはなっておらず、タイやベトナムでティックトックはむしろ存在感を増幅させつつある。
バイトダンスは海外の系列企業を通じ、ティックトックを運営し、電子商取引(EC)を事業拡大の大黒柱に据えている。インドネシアでは制限されたものの、他の東南アジア諸国では政府がティックトックの活動をふさぐような措置は取っていない。
ベトナムで急成長を遂げつつあるティックトックは、ソーシャルコマース(商品の購入機能を備えたSNS)事業でシンガポール拠点の「ラムザ」を抜き去り、中国のテンセント系列の「ショッピー」に次ぐ2位に急浮上している。
タイでも同様の勢いを見せているのがティックトックで、専門紙によると東南アジア全体で年間売上高は120億㌦(約2兆円)以上との試算もあるほどだ。
だが、多くの東南アジア諸国は現状のビジネスチャンスだけに目を奪われ危機の本質から目を背けている側面がある。
その危機の本質は、中国が2017年に施行した国家情報法にある。
同法では「いかなる組織や個人も、国家の情報活動に協力しなければいけない」と定められている。
つまり、共産党政権からデータ提供を要請されたら、中国企業はそれに逆らえないのだ。
とりわけ位置情報やアプリの利用履歴などを分析すると、利用者の住所や所属部署なども特定されるリスクが存在する。
米国がティックトック規制法を急いだのも、もし米政府の要人や、企業幹部などの個人情報が中国政府に渡り、それが脅迫などに使われたら、国家の安全保障に関わりかねないとの危機感があったからだ。また中国政府がアプリを介し、台湾問題などを巡って米社会を分断する情報操作を図る可能性もある。
米上院情報委員会のマルコ・ルビオ副委員長(共和党)はティックトック法案通過後、「われわれは何年間も、中国共産党が米国で最も人気のあるアプリの一つをコントロールすることを許してきた。これは危険なほど近視眼的だった」とコメントした。
このコメントは、現在のティックトックに関して甘い東南アジアの状況にぴったりの警鐘だ。