フィリピンと中国が領有権を主張する南シナ海で、中国の威嚇行為がエスカレートし、フィリピン側に複数の負傷者が出る事態となっている。フィリピンの補給船が中国海警局の船から激しい放水を受け、乗員が負傷したり船体が激しく損傷するケースが相次いでいるほか、海洋資源調査の研究者チームが中国ヘリによる危険な妨害を受けた。エスカレートする中国の横暴な行動に国際社会から非難の声も高まっている。(マニラ福島純一)
フィリピン海軍が南シナ海の前哨基地として使用している、アユンギン礁の座礁船シエラマドレへの補給活動に対する中国の妨害活動がエスカレートしている。
南シナ海のセカンド・トーマス礁付近で23日、座礁船シエラマドレに兵員と物資を輸送中のフィリピンの小型船が中国海警局の船舶から激しい放水攻撃を受け、破壊された船の残骸に当たるなどして兵士3人が負傷した。これにより木造の船は深刻な損傷を受け、一時航行不能に陥り、ゴムボートを使って輸送活動を続けることになったという。さらに中国船はフィリピン船の航路を妨害するため、浮き障壁も設置した。
これに先立つ5日にも、同じ船が中国海警局の船舶からの放水攻撃で窓ガラスが粉砕され乗組員4人が負傷しており、国内では中国の横暴に対する非難の声が高まった。しかし中国は「中国領海に強制的に侵入しようとした外国船舶に対する合法的な行動だ」と主張。激しい放水攻撃を正当化した。
中国は座礁船シエラマドレを巡り、過去にフィリピン政府との間で撤去が約束されたと主張している。しかしフィリピン政府はこれを否定しており、マルコス大統領は「もし過去に合意があったとしても現時点で撤回する」と述べている。
シエラマドレは1999年にフィリピン海軍が意図的に座礁させた。以来、12人の水兵が常駐し同海域におけるフィリピン主権の象徴となっている。そのため中国にとっては、まさに目の上のたんこぶといった存在で、同海域における対立の最前線となっている。
さらに23日にはパグアサ島で海洋資源の調査を行っていたフィリピンの研究者チームが、中国人民解放軍のヘリによる危険な妨害を受けた。漁業水産資源局によると、浅瀬で活動する調査チームの上空で、中国ヘリが低空のホバリングを繰り返し、強風で巻き上げられた砂や小石で複数の研究者が軽傷を負った。また水中を調査していた関係者はヘリの強風で浮上できず、命の危険にさらされたという。
このような中国による挑発行為に対し国際社会からの非難が高まっている。フィリピン外務省によると、これまでに米国や英国、日本、欧州連合(EU)などをはじめとする世界21カ国がフィリピンへの支持を表明した。その上で外務省の報道官は、フィリピンの主権と管轄権の侵害、そして国連海洋法条約(UNCLOS)の違反に抗議するため中国に対し適切な外交行動を取ることに尽力すると強調した。マルコス政権が始まってから中国政府への抗議は14回、口上書の提出は147回に達するなど、南シナ海における中国の横暴は一触即発を招きかねない事態にまでエスカレートしている。
19日にフィリピンを訪問し、マルコス大統領と会談したブリンケン米国務長官は、南シナ海における中国の挑発的な行動に懸念を示した上でフィリピンへの支持を表明。相互防衛条約に基づく「鉄壁」の支援を約束した。