一帯一路の矛盾 大陸国が海洋国目指す陥穽 【連載】続中国南進 揺れるASEAN(5・エピローグ)

止まってしまったフォーエイサイの 空港建設

海外に行った時、時間をつくって二つの「ロジ」を見るようにしている。

一つは路地裏。表街道ではなく、住宅街の路地裏をひたすら歩く。子供たちはどういった遊びをしているのか。人々は日常、どういった市場や寺に出掛けているのか。胃袋に収める食べ物や心に収める糧、心躍らせるものなど市井の人々の生活実態が如実に見えてくる。

もう一つのロジはロジスティクス。武器や弾薬など物流を含めた物資移動機能の実態だ。「素人は戦略を語り、プロは兵站(へいたん)を語る」と言われる。戦いの趨勢(すうせい)を決めるのは兵站構築能力であるケースが多く、戦略でその差を逆転させるというのは刀や槍(やり)の時代ではあり得ても、現在では稀(まれ)だ。

今回の取材では、中国の一帯一路の一角を占める東南アジアを歩いた。

一帯一路とはユーラシア大陸の東西を陸と海の回廊で結び、中華経済圏の肥大化を目指したものだ。無論、一帯一路には安全保障戦略も織り込まれており、有事には兵士や武器・弾薬を運べるロジスティクス機能も発揮できるよう設計されている。東南アジアではカンボジアのリアム海軍基地やミャンマーのチャオピュー港が中国海軍の基地および寄港地になる見込みだ。

ただ地政学のテーゼには、大陸国家と海洋国家の二兎(にと)を追えば破綻するというのがある。ソ連もナチス・ドイツも、大陸国家なのに海洋国家にもなろうとして墓穴を掘った側面が存在する。

中国の一帯一路は、中国と欧州を鉄道やハイウエーで結ぶ陸の回廊だけでなく、太平洋西部からマラッカ海峡を経てインド洋へと出る海の回廊も含まれる。これは大陸国家である中国が、海洋大国にもなろうとするもので、地政学的には破綻リスクを抱える。

中国はそれだけで飽き足らず、宇宙大国への野心も隠さない。大陸国家と海洋国家を肥大化させ、さらに宇宙大国まで目指す「偉大な中華民族」のネックとなるのは経済力だ。

その中国の経済力に陰りが見えてきた。中国の不動産は本格的なバブル崩壊までには至っていないものの、昨年のマンション新規着工件数はコロナ前の2019年比で4~5割方落ち込んでいる。そして約3割を土地取引で賄ってきた地方財政も、これによって危機に陥るという二次被害も深刻だ。

イタリアが昨年末、一帯一路からの撤退を決めたのは、約束したはずの経済支援がなかったからだ。一帯一路という世界を中華の大風呂敷に包んでしまおうという「赤い野心」は、これから明らかになるであろう数々の空手形によって燃え尽きる可能性が高い。ない袖は振れないのだ。

ビエンチャンに駐在する国際協力機構(JICA)の山本毅(つよし)氏から得た「ラオス北西部にあるフォーエイサイ空港は、ビエンチャン空港より長い滑走路を造ろうとしている」との情報を確認するため、夜行バスに飛び乗った。3000㍍級だと戦闘機のみならず爆撃機の離発着が可能だ。だが現地で見たのは、メコン川沿いの山を切り開いてインドシナ半島特有の赤土がむき出しになったままの細長い平地だけだった。

ダンプカーが駆け回ったタイヤや重機稼働の跡はあったが、ダンプカー1台どころか人っ子一人いない。建設が止まったままのフォーエイサイ空港の建設現場で、中国の台所事情の一端を見た気がした。(池永達夫)

(終わり)

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