「ドゥテルテ政権の継承」をうたい文句に先の大統領選で大勝を果たしたマルコス大統領と、サラ・ドゥテルテ副大統領を含むドゥテルテ陣営の蜜月関係が早くも終焉(しゅうえん)を迎えようとしている。その背景には麻薬戦争を巡る国際刑事裁判所(ICC)の調査や改憲を巡るマルコス氏の動きに対するドゥテルテ陣営の強い不満がある。現大統領と前大統領が互いに「薬物中毒者」とののしり合う事態にまで発展しており、政治的混乱は避けられそうにない。(マニラ・福島純一)
1月28日にドゥテルテ陣営は、マルコス政権が進める改憲に反対する政治集会をドゥテル前大統領の地元であるダバオ市で開催した。ちょうどこの日は、マニラ首都圏で「新しいフィリピン」を標榜(ひょうぼう)するマルコス陣営による社会運動の式典が大々的に開催されており、まさに当て付けと言った感じだ。
集会で登壇したドゥテルテ前大統領は持ち前の毒舌を発揮し、マルコス氏は「麻薬中毒者」だと糾弾した。その根拠として、在任中に麻薬取締局の監視リストにマルコス氏の名前が記載されていたことを指摘した。そして、このまま改憲を進めれば父親の故マルコス元大統領のように国を追放されるだろうと警告した。
これに対しマルコス氏はベトナムへ出発する前の記者会見で麻薬使用を否定。ドゥテルテ氏の言動は、強力な鎮痛剤フェンタニルの長期にわたる常用によるものだとの見解を示し、「主治医の指示に従うべきだ」と忠告した。ドゥテルテ氏は若い頃のバイク事故で脊髄を損傷し、鎮痛剤としてフェンタニルを服用していることを公言していた。フェンタニルは末期がん患者などに使用される合成麻薬で、中毒性も高く違法使用も問題になっている。
このような2人の「口撃合戦」を受け地元紙は、「マルコスとドゥテルテの麻薬戦争が勃発」と見出しを掲げた。
ドゥテルテ陣営が反発を強めている理由としては、ICCへの対応を巡るマルコス氏の変節だ。ドゥテルテ政権は麻薬戦争の超法規的殺人の調査に反発し2019年にICCを脱退した。しかしマルコス氏は大統領就任後にICCへの再加入を示唆。さらに最近では政府としての調査協力を拒否する一方で、調査員の入国を認める発言をするなど態度をさらに軟化させていた。
さらにサラ副大統領への冷遇も不満の一因とみられている。下院では24年度の政府予算案からサラ氏が兼任する教育省と副大統領への機密費がすべて削除された。これは次期大統領の有力候補でもあるマルコス氏の従兄弟のロムアデス下院議長の動きによるものだとのもっぱらのうわさだ。
先の大統領選では、最も多くの支持を集めていたサラ氏が副大統領候補に退く形で、マルコス氏が大統領当選を果たした。ドゥテルテ氏は在任中にマルコス家が長年にわたり切望していた故マルコス元大統領の英雄墓地への埋葬を多くの国民の反対を押し切るかたちで許可するなど、マルコス家との関係はまさに蜜月状態にあった。それだけに就任後のマルコス氏の変節は、ドゥテルテ陣営にとって裏切り行為と言える内容だった。
サラ副大統領は、地元ダバオ市で来年5月の中間選挙に出馬するとの考えを明らかにしていた。これは任期6年の副大統領を途中で辞任するという意味でもあり、自分を冷遇するマルコス政権への当て付けだとの臆測が広がっていた。
マルコス氏は厳しい外資規制が外国資本の誘致の妨げになっていると主張し、改憲に意欲を見せている。この改憲には大統領の任期を延長する内容も含まれているとのうわさもあり、独裁化への警戒も相まって国を二分する問題に発展する可能性も指摘されている。