タイ高速鉄道 建設費自腹で関与を制限 中国南進 揺れるASEAN(7)

アユタヤ近郊 の高速鉄道建 設現場

米中を両天秤(てんびん)に掛けたタイの安全保障政策ながら、中国への警戒心が皆無というわけではない。

基礎インフラである高速鉄道にしても当初、中国の資本と技術を全面導入するはずだったが、強引な手だてに対中警戒心が高まり、中国の影響力を最小限にとどめるプロジェクトに変更させた。

それは中国側が資材や労働者、資金の一切を提供する代わりに、実質的な支配下に置くことを条件としたことからタイ側が猛反発。結局、タイ側が全額出資して高速鉄道の運営権と所有権を担保し、中国側は技術指導に限定されることになった。

ラオスの首都ビエンチャンに近い東北部ノンカイとバンコクを結ぶ沿線を、タイ国鉄に乗車して走った。

高速鉄道の本格的な工事が始まっているのは、ノンカイ・ナコーンラーチャシーマー線とアユタヤ・バンコク線だ。

タイ東北のイサーン地域には三期作が可能な田園地帯が広がる。刈り取り前の黄金色の田がある横で青々とした植えたばかりの田があったりと、パッチワークのような田園風景の中に灰色のコンクリート製の支柱がバンコク方向に並んでいる。

アユタヤ近郊の工事現場では、場所によって標高が違うらしく、高さが低いもので3㍍、高いもので8㍍ぐらいのコンクリート支柱が木琴の音板のような振幅で波打っている。

この一部工事が始まったタイ中高速鉄道の工事進捗(しんちょく)率は、18%と目標37%の半分以下でしかない。タイと中国両国が、高速鉄道敷設プロジェクトで基本合意したのは14年前にもかかわらずだ。

それでも中国は懐を深くして、タイ主導の下、高速鉄道建設に加担している。タイを抜きにしては、中国の最大目標である北京とシンガポールを結ぶ南北回廊は構築できないのだ。すでに運行が始まっている中国とラオスを結ぶ高速鉄道をさらにタイ、マレーシア、シンガポールへと延伸させ、東南アジアを中国を中心に一体化した「大中華圏」構想の背骨にするプロジェクトは頓挫してしまう。だからどんな形であれラオスとマレーシアを結ぶタイの高速鉄道が完成すれば、中国は取りあえず満足なのだ。

タイ族の起源は中国雲南とされる。それが漢族の南進により雲南のタイ族は、メコン川に沿って南下しランナータイ王国、スコータイ王国を建国していった。ただタイ在住華人の多くは潮州系で、近代移民の子孫だ。

タクシン元首相にしても中国名は丘達新であり、客家系華人だ。その他にもピブンやタノム、チャチャイ、チュアン、チャワリット、バンハーン、アピシットらなど実に多くの華人系首相をタイは輩出している。

そうした華人系タイ人の多くに、現在の中国とは一線を画すバランス感覚が存在する。

タイは中国と軍事演習もするが、同時に同盟国米国との軍事演習を欠かすことはない。

わが国はそうした歴史的遺産を活(い)かしたタイの優れたバランス感覚を、静かに力強くバックアップしていくことが肝要だろう。

中国の衛星国家のようなカンボジアやラオス、中国傾斜に弾みがつくミャンマー。これら3カ国と国境を接し経済的にも政治的にも深い関係を持つタイの役割は大きなものがある。

カンボジアやラオスなど東南アジア一帯で見られる樹木タマリンド。乾期に入ったはずのバンコクで、季節外れの雨がオジギソウに似たその葉を揺らせていた。(池永達夫)

=終わり=

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