両天秤のタイ バランサーとしての役割 中国南進 揺れるASEAN(6)

バ ン コ ク 市 内 の ビ ジ ネ ス 街

タイと米国は同盟関係にある。昨春も両国軍が主催する東南アジア最大級の多国間軍事演習「コブラゴールド」が、約7400人規模で実施された。コブラゴールドには日韓やインドネシア、マレーシア、シンガポールの7カ国が全面参加している。

米インド太平洋軍のアキリーノ司令官はこの時、「自由で開かれたインド太平洋を維持し、全ての国が平和、安定、繁栄を維持できるようにする」ための協力の重要性を強調した。

 一方でタイは中国とも軍事演習を行っている。両国海軍は昨秋、合同軍事演習「ブルー・ストライク」を8日間、タイ中部サッタヒープの海軍基地をベースキャンプにして行われ約2500人が参加した。

中国人民解放軍は揚陸艦や潜水艦などを派遣、操作訓練などを行った。

タイは10年前の軍事クーデター以降、対米関係が悪化。その間隙(かんげき)を縫う形で、中国がタイとの軍事協力を進展させてきた経緯がある。タイ海軍は2017年以後、中国の潜水艦2隻と中国製揚陸艦を購入している。

10年から始まった中タイ軍事演習で、中国が潜水艦を派遣したのは昨年が初めて。カンボジアのリアム海軍基地やアンダマン海を含む近隣海域での、海上安全保障への関心度の高さをうかがわせる。中国は昨年11月、ミサイル駆逐艦やミサイルフリゲート艦が補給艦を伴い、隣国ミャンマーの最大都市ヤンゴンのティラワ港にも寄港。中国艦船はこの時、ミャンマー海軍との軍事演習にも参加している。

シンガポールの軍事専門家筋は「潜水艦が参加した今回の中タイ軍事演習で、タイ海軍が作成した近隣の海底地図が中国の手に渡った可能性が高い」と指摘する。

さてタイは、国内総生産(GDP)の16%を観光産業がたたき出す。関連産業を含めれば観光は、タイのGDPの約2割を占める。タイを訪問する年間外国人観光客数4000万人という東南アジア屈指の観光大国だ。

そのタイがインド人観光客に対し昨年11月、半年間という期限措置ながら短期滞在のビザ免除に踏み切った。

背中を押したのはコロナ後も戻りが鈍い中国人観光客だった。タイは昨年、中国人観光客誘致策として中国の建国記念日である国慶節の大型連休に合わせ、9月下旬から5カ月間の時限措置として、中国人の観光ビザ免除を打ち出したが、結果は芳しくなかった。最盛時、年間訪問客数が1100万人という最大のお得意だった中国人観光客の穴を埋めるべく、今度はインドからインバウンド客を引き寄せようというのだ。

昨年、中国を抜いて世界一の人口大国となったインドは、経済活力に富んでいる。中国カードが効かなければ、インドカードを直ちに切ってくる。

こうした周辺国家の情勢を俯瞰(ふかん)して手を打つところが、いかにもタイらしいところだ。東南アジアが欧米の植民地と化していた時代に自国を緩衝国家と位置付け、自由の国タイの主権を維持していったDNAが残っている。

タイは大陸国家というより、半島国家的特質を多分に持っている。半島国家は海上流通の拠点になることから、常に新しい情報を入手でき周辺情勢をしっかり押さえることが可能だ。

こうした国際情勢をしっかり見定めた上でバランス感覚を働かせるタイが存在することは、ASEAN(東南アジア諸国連合)にとっても朗報だ。(池永達夫)

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