カンボジア 対中感情 庶民レベルで反発も 中国南進 揺れるASEAN(3)

シアヌークビルの中心地でさえゴーストビルは多い

プノンペンからの高速バスで隣り合わせた高校教師のコン・ポーン氏(48)と、シアヌークビルで一緒に昼食を取った。生ガキなど魚介市場のそばのレストランだ。

<前回>港湾都市シアヌークビル 観光開発に潜む基地化の野心 中国南進 揺れるASEAN(2)

近くの垣根の上を野良猿が、自信のある足取りで向かってくる。インドでは野良牛が街中を闊歩(かっぽ)しているが、シアヌークビルでは猿が猫のように町を徘徊(はいかい)している。日本の山猿より、足腰が一回り大きく何より眼光が鋭い。

レストランの店主が、青マンゴーを猿に向かって下手で投げて関心をそらそうとする。だが猿はそんなものには目もくれず、塀の上に置いてあったキュウリを漬けたプラスチックの器を越えていく。その三つ目の器を後ろ足で蹴飛ばし、キュウリが道路に散乱した。

店を手伝っている夫人は、猿に怒りを発することもなく黙々とキュウリを拾い再び器に詰め込む。その静かな背中に、仏教的諦観を見た気がした。見上げると猿は、電柱から電線に取り付き空の上だ。顔を見ると「下界のことなど我関せず」然とした上の空だ。

ご飯に乗せた牡蠣(かき)のオムレツを食べながら、彼はぼそりとつぶやいた。

「中国人もあの猿と同じさ」

同じ土地に住みながら、別世界の住人だというのだ。

カンボジアと中国は、政府高官や軍人同士でつながることはあっても、その恩恵が庶民レベルまで下りてはいない。

五つ星のカジノホテルなど庶民とは無縁だし、プノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路にしても通行料12㌦は、最低賃金が月額204㌦のカンボジア人にとって割高感が強い。

少ない恩恵とは反対に治安悪化や家賃の高騰など、生活レベルで中国への反発を強めている実情もある。

国を挙げての中国依存が強まる一方、カンボジアでは麻薬取引や違法賭博など中国人による組織犯罪が社会問題として急浮上してきた。

昨年、シアヌークビルを拠点とした特殊詐欺グループの日本人25人が逮捕された。だが、中国人の逮捕者数はその規模ではなく、年間1000人以上という年も少なくない。

シアヌークビルが中国の租界地のようになった最大の理由は、中国で禁止されているオンラインギャンブルに対する規制が緩かったからだ。とりわけコロナ前には、中国からカジノ関係者の出稼ぎが急増した経緯がある。内務省移民総局のデータによると当時、同局が発行した約45万人分の長期滞在ビザのうち中国人は31万人以上と圧倒的だった。

だがオンラインギャンブルを介したマネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪リスクが拡大したことを受け2019年夏、カンボジア政府がオンラインギャンブルを禁止。すると中国人長期滞在者は、蜘蛛(くも)の子を散らすようにカンボジアから出国して激減していった。

現地紙によれば、その数40万人ともされる。そのため、コロナ禍からようやく脱した現在もシアヌークビルにはゴーストビルディングと呼ばれる店子(たなこ)や住人のいないビルや建築途上のまま放置されたビルが林立している。

中国人長期滞在者が大勢いた時には治安悪化を招き、それらが本国に帰ったら帰ったでカンボジアの活力が失われる。中国に傾斜したこうしたカンボジアの一本足打法を脱し、バランスの取れた諸外国との関係強化こそが望まれる。(池永達夫)

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