タイ法務省が新収監規則 タクシン氏への便宜?刑務所以外でも服役可能

身柄拘束から1週間 異例恩赦で刑期短縮

タ イ の タ ク シ ン 元 首 相 8 月 22 日 、 バ ン コ ク ( A F P 時 事 )

タイで144の刑務所および矯正施設を管轄する法務省矯正局が今月上旬、「受刑者は刑務所以外の場所でも服役できる」とする新規則を全国の知事に通達したことが政治的波紋を広げている。この通達は普遍的な規則変更ではなく、「警察病院のVIPルームに入院中のタクシン元首相の特別待遇のために打ち出したもの」との批判が上がっているためだ。(池永達夫)

新規則では、矯正局が設定した条件に適合すれば、受刑者は刑務所以外の場所で服役できるとしている。これまで仮釈放の申請そのものも最低半年、服役義務を果たす必要があったが、こうした条件も事実上撤廃された。矯正局は収監規則変更の説明で、「受刑者は刑務所外でリハビリや職業訓練を受けることができる」とした上で、「タクシン氏の便宜のためにつくられたルールではない」と疑惑を否定したものの、批判の火種はくすぶり続けている。

タクシン派の貢献党セター氏が首相に選出された今年8月22日、15年ぶりの帰国を果たしたタクシン元首相は、汚職などの罪で禁錮10年の実刑判決を受けていたものの、刑期は8年に減刑された。

そしてタイ政府は9月1日、ワチラロンコン国王の恩赦によって、タクシン元首相の禁錮8年の刑期を、8月31日付でさらに1年に短縮すると発表。5年に及んだ首相在任時の功績と専門医による治療が必要な現在の健康状態を考慮してのことだとした。

結局、帰国を果たしたタクシン元首相は身柄拘束から1週間弱で、恩赦適用という極めて異例の厚遇を受けた。タクシン元首相が恩赦を申請したのは8月31日だから、日を置かず即決発令だった。その上で今回の措置によりタクシン元首相は、残りの刑期を刑務所で過ごす必要がなくなった。

矯正局は入院から120日以内に刑務所移送の可否を判断する必要があり、その期限を迎えようとしていた。ただ、残り8カ月の刑期をどこで過ごすのかは不明だ。

タイ国立開発行政大学院大学(NIDA)が実施した今月中旬の世論調査では、最大野党の前進党が44%で断トツのトップ、貢献党は24%止まりだった。首相にふさわしい人物は前進党のピター元党首がトップの39%を獲得し、セター首相は22%にとどまった。

5月の総選挙で第1党の前進党を外し、親軍政党を組み入れて大連立を組むという「禁じ手」で政権を手中にした第2党の貢献党としてみれば、この世論調査結果は政権誕生の血筋からくる業のようなものだ。一番、こうした危機感を抱いているのは貢献党のセター首相だ。

だから、セター首相はがむしゃらに働く。短期間に誰もが認める実績を積み上げないことには、寄せ集めの政権の求心力は維持できないし、何より次期総選挙で貢献党は2位どころか低迷を余儀なくされ、期待値が高く判官びいきの庶民の支持を得る前進党が圧勝する。この危機感がセター首相の背中を押す最大のパワーとなっている。

国会答弁で「4年以内に成長率を5%へ押し上げる」と宣言したセター首相は、わずか4カ月のうちに主要貿易相手国の中国や米国、日本を訪問し、投資を促し貿易拡大の道筋を示した。また、ベトナムやインドネシア、マレーシアの後塵(こうじん)を拝するようになった国内総生産(GDP)伸び率を押し上げるため自由貿易協定(FTA)拡大のための通商交渉に本腰を入れ、農家の債務繰り延べや最低賃金の大幅引き上げといった内需刺激策にも動き出している。

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