ガザ地区に130人以上
退避へエジプト国境開放を要請

国内のイスラム過激派に影響も
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃に、現地のフィリピン人労働者も巻き込まれ、これまでに4人の死亡が確認された。イスラエルでは約3万人のフィリピン人労働者が滞在していると推定されており、比政府は国民の保護や帰国に向けた準備を急いでいる。また治安当局は、国内のイスラム過激派にハマスの影響が及んでいないか監視を強化する方針を示した。(マニラ・福島純一)
フィリピン外務省によると10月19日の時点で確認されたフィリピン人犠牲者は4人、依然として2人が行方不明だという。イスラエルでは介護士を中心に約3万人のフィリピン人が働いていると推定され、犠牲者の多くも介護士だったことが分かっている。
フィリピンのメディアによると犠牲者の一人であるパンガシナン州出身の女性介護士アンジェリン・アギーレさん(33)は、ハマスの襲撃にもかかわらず最後まで避難せず、担当していた高齢女性に寄り添い共に殺害された。これに対しエルサレムのフルール・ハッサン・ナホム副市長は、「悪を前にして想像を絶する行動だ」とアギーレさんの勇気と犠牲的精神を称賛した。もう一人の犠牲者もパンパンガ州出身の介護士であることが分かっている。
比外務省は11日にイスラエルの警戒レベルを2に引き上げた。これは不要不急の移動を制限し、新たなフィリピン人労働者の派遣を禁止する措置。まだ帰国を義務付けるには至っていないが、20日には政府支援による帰国第2陣が到着し帰国者は33人に達した。
フィリピン人労働者の一部はガザ地区にもいる。フィリピン外務省は15日に、ガザ地区の警戒レベルを4に引き上げた。これは現地のフィリピン人に避難を義務付けることを意味する。これに伴い政府は、現地のフィリピン人の避難のためガザ地区とエジプトの国境を即時開放するよう求めた。当局によるとガザ地区には130人以上のフィリピン人が滞在しており、そのうち約80人がガザ地区南部に移動しエジプト経由の避難に備えているという。イスラエル軍によるガザ地区への地上侵攻が始まれば、さらに多くのフィリピン人が巻き込まれる可能性もあり政府は対応を急いでいる。
一方、複数のイスラム過激派が活動するフィリピン国内では、ハマスが及ぼす影響について懸念も出始めている。テオドロ国防相は13日、イスラエルとハマスによる紛争がフィリピン国内に及ぼす波及効果について政府が監視していることを明らかにした。テオドロ氏は「波及効果や模倣効果の可能性を監視しているが、今のところそのような影響は見られない」と指摘。世界中の国々が安全保障に及ぼす影響について厳戒態勢を敷いていると述べ、監視の必要性を強調した。
またアコルダ国家警察長官は国内のすべての警察署に、大使館や商業施設、通信施設、電力・水道インフラ、交通ターミナルなどに警官を配備し監視を強化するよう命じた。
フィリピンの国家安全保障会議によると、2018年から22年の間にハマスの工作員2人が国内に滞在し、地元のイスラム過激派と接触していたことが分かっている。そのうち一人は爆弾の専門家で逮捕後トルコに強制送還された。フィリピンでは過激派組織「イスラム国」(IS)の影響を受けたアブサヤフなど過激派組織が南部を中心に複数活動しているが、国軍による掃討作戦が成功し弱体化が進んでいる。