
タイ警察はこのほど、全国規模で銃器一斉取り締まりを実施し、銃2008丁、銃弾約7万6000発を押収し、1593人を逮捕。改めてタイの銃社会の実態を浮き彫りにした。(池永達夫)
全国規模での銃器一斉取り締まりキャンペーンをタイ警察に強いたのは、バンコクで今月3日に起きた忌まわしい銃乱射事件だった。
今年2月にも、東北のナコンラチャシマで兵士が軍から盗んだ銃器を使って、町で乱射、買い物客ら29人が死亡、58人が重軽傷を負うという痛ましい事件が起きていた。
バンコクでの銃乱射事件は、都心の大規模ショッピングセンター「サイアム・パラゴン」で発生。中国人とミャンマー人の女性2人が死亡、5人が負傷した。警察はタイ人少年(14)を現場で逮捕し、殺人容疑で取り調べている。
今回の事件では、少年はSNS(交流サイト)を通じて銃を入手したとされる。違法業者がSNSでアングラの銃販売を発信、少年はそこにコンタクトして入手した銃で犯罪に及んだルートが浮上したことから、タイ警察は今回の一斉取り締まりで不法銃器を販売していたフェイスブックやX(旧ツイッター)などのSNS合計291に及んだアカウントを閉鎖。さらに11日には、南部ナコンシータマラート県で無許可の銃密造工場を急襲し閉鎖に追い込んだ。
銃所持が合法的に認められているタイでは、バンコクの繁華街などでガラスの陳列棚に銃器を展示した銃砲店が存在し賑(にぎ)わっている。東南アジアの中でタイは、銃所持の最も多い国の一つだ。
ただ銃や銃弾の購入には、政府の許可が必要。未成年者の購入は認められておらず、20歳以上で犯罪歴がないこと、精神疾患を患っていないことが条件となる。免許を取るにはその他、所得証明や職業などの審査に約半年ほど時間がかかるが、弁護士や経営者など富裕層に人気がある。ただ外国人の銃所持は認められておらず、違反した場合は8万円以下の罰金が科せられる。
銃は正規ルートだと20万円以上と高価だが、改造銃など闇市場では1万円程度でも入手できるとされる。タイでは動画サイトに銃の作り方がアップロードされていたりもする。
免許制で銃は当局に管理されているものの、不法売買されたり非合法の銃が免許取得済み銃より多いともいわれる。
タイでは徴兵制があることから、男性の多くは銃の扱いには慣れており、ナコンラチャシマでの兵士銃乱射事件のように夫婦仲の悪さが、赤の他人を巻き添えにした銃乱射事件へと発展していくリスクも存在する。
その意味では、「いつでも、どこでも、誰からでも」銃口を向けられるリスクが存在することを覚悟しておく必要がある。10万人あたりの殺人事件の発生件数は、タイは日本の10倍以上だ。
このことは長く滞在する駐在員は熟知しており、トラブルがあっても相手の恨みを買うようなことはしないなど、安全に暮らす基本的マナーは身に付けている。
危険なのは「安全と水」はあって当たり前の日本的風土に浸ったまま、異国の地を旅する観光客だ。