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南シナ海 怒れる比 中国が浮遊障壁物設置

漁業被害深刻、サンゴ礁も破壊か

20日、南シナ海のスカボロー礁付近に中国側が設置した障害物(フィリピン沿岸警備隊提供・時事)

フィリピンと中国が領有権を主張する南シナ海で、中国がフィリピン船舶の侵入を妨害するため浮遊障壁を設置したことから緊張が高まっている。あからさまな締め出し行為に対してフィリピンは強く反発。さらに中国の仕業と見られるサンゴ礁の大量破壊も確認されるなど、フィリピン政府は法的措置も辞さない構えを示している。(マニラ・福島純一)

中国政府は9月26日、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)にフィリピン船舶が無許可で侵入したとして、これを阻止するために浮遊障壁を設置したことを認めた。これは海域で浮遊障壁を確認したフィリピン政府の抗議に返答したものだ。

同日、マルコス大統領は浮遊障壁の撤去を命じ、フィリピンの沿岸警備隊がこれを実行した。国家安全保障担当のアニョ大統領顧問は「浮遊障壁は航行に危険をもたらし明らかな国際法違反」と指摘。さらに「フィリピンの漁民の経済活動も妨げられている」と述べ、撤去の実行は国際法で認められたフィリピンの主権に沿ったものだと正当性を強調した。

これに対し中国外務省の汪文斌副報道局長は会見で「スカボロー礁における主権と海洋権益を守るという中国の決意は揺るぎない」と述べ、「挑発したり問題を引き起こさないよう求める」と警告した。今後、再び浮遊障壁を設置するかについては触れなかった。

この海域ではフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内で漁をするフィリピンの漁船を中国海警局のボートが執拗(しつよう)に追い回す様子が確認されるなど、中国による妨害行為が加速していた。

さらに浮遊障壁の設置に先立つ9月16日には、フィリピン国軍が30隻以上の中国船舶を確認したロズル礁の海域で、海底のサンゴ礁が根こそぎ破壊されているのを確認したと発表。明確な証拠はないとしながらも、中国による大規模なサンゴの不法採取の可能性が高いと指摘した。

サンゴ採取の目的としては装飾品に加工する目的のほか、パグアサ島の近くでは砕かれたサンゴが積み上げられているのが確認されており、新たに人工島を建設する素材として使う可能性も指摘されている。

この指摘に対し中国外務省は、「事実に基づく根拠がない」と指摘しサンゴ礁の破壊を否定。「フィクションから政治ドラマを作り出すのをやめるよう要請する」とフィリピンを非難した。さらにフィリピンが防衛拠点として使っている座礁船が、海洋汚染を引き起こしていると主張し撤去を求めた。

フィリピンの漁業団体パマラカヤによると、南シナ海に面するサンバレス州の漁獲量は2020年以降70%も減少していることが分かっている。中国の漁船による乱獲や妨害行為だけでなく、サンゴ礁の破壊により生態系が悪化し魚が減っている可能性も指摘され、今後さらに悪化すると予測した。

こうした状況を受けフィリピン政府は、サンゴ礁の破壊や浮遊障壁の設置などの違法行為を巡り、中国をハーグ常設仲裁裁判所に提訴する方針を示した。フィリピンのレムリア司法相は「すでに多くの証拠をつかんでいる」と述べ、提訴に踏み切り中国に賠償を求める方針を明らかにした。

フィリピンはアキノ政権下の16年に「中国が主張する九段線には国際法上の法的根拠がない」とする常設仲裁裁判所の判決を勝ち取った実績がある。今回もフィリピンに有利な判断を得ることができれば、中国の横暴を国際社会に暴露する絶好の機会となるだろう。

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