
中国が南シナ海の島を埋め立て軍事基地化することで、「平和の海」が脅かされつつある。そうした「平和の海」への脅威は、南シナ海だけではない。中国は南太平洋への影響力拡大と軍事拠点化に余念がない。狙いは台湾包囲網を狭めること、さらに米豪の分断を図ることで太平洋の安全保障を担保しようとする遠望がある。(池永達夫)
中国の南太平洋進出ぶりが顕著だ。
目的の一つは、台湾の外交空間を封印し包囲網を狭めることで、台湾併合に向けた政治的布石を打つことだ。
台湾を国家承認している13カ国のうち、南太平洋は約3分の1の4カ国を占める。パラオ、ナウル、ツバル、マーシャル諸島だ。
そうした国々から台湾への国家承認を取り消し、中国と国交を結ばせたい政治的意向がある。
4年前には、中国は経済協力を代償にソロモン諸島とキリバスを台湾から切り離し、中国との国交を結ばせている。
こうした経済協力をてこに南太平洋への影響力を強めてきた中国は昨春、ソロモン諸島とも安保協定を結んだ。
協定の中身はいまだ明らかにされていないが、事前に流出した協定草案には、ソロモン諸島が中国軍の派遣や艦船の寄港を認めるなど、高度な軍事協力が盛り込まれていた。同協定によって、中国軍がソロモンに駐留するようになれば、南太平洋の安定と航行の自由が脅かされる恐れがある。
中国の経済圏構想「一帯一路」はユーラシア大陸の東西を陸路と海路で結ぶだけでなく、南東に向かって突き出す格好で南太平洋にも伸びている。一帯一路構想の特質は、経済開発と安全保障が絡んだ軍事拠点の確保が一体となっていることだ。インフラ投資と経済援助で政治的影響力を強めながら、中国は軍事拠点化を着実に進めている。
中国がソロモン諸島などに関与を拡大させているのは、南太平洋での米豪分断の野心があるからだ。遠望しているのは西太平洋を「中国の海」にすることだ。
中国と安保協定を結んだソロモン諸島は昨年夏、米沿岸警備隊の巡視船寄港を拒否。手をこまぬいていれば、「中国の海」が現実化しかねないとの危機感が高まる。
こうした中国の動きに敏感に反応しているのが米国だ。
巻き返しを図るため米国は昨年9月、南太平洋諸国の地域機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」加盟メンバーをワシントンに招待し、首脳会議を開催。共同宣言でパートナーシップの強化をうたい、この地域の米政府公館を6カ所から9カ所に増やすことを決めた。また米政府は、中国の「経済的威圧」を阻止する手助けをするとも約束した。
米国は5月、手始めにパプアニューギニアと防衛・海洋協力協定を締結。さらにバイデン米大統領は来週、PIF首脳らと2回目の首脳会合を開催する。
なお、南太平洋においてパラオだけは、米国や台湾と信頼関係に基づく強固な関係を保持しているものの、他は米中をにらんだ両天秤(てんびん)外交で、双方から利益を獲得しようとの姿勢が鮮明だ。日米豪は、そうした南太平洋の実情を熟知し、各国のニーズに寄り添い、質が高く、持続可能な支援を考える必要がある。