
インドネシア初となる高速鉄道が、中国最大の祝日である国慶節(10月1日)に開通する。今春には6月に完工予定としていたが、今月17日の独立記念日の翌18日にジョコ・ウィドド大統領や閣僚らを乗せて行う最終的な試運転も中止された。ただ、今秋から一般乗客を対象とした本格的な営業運転を開始するとの予定は変えていない。(池永達夫)
首都ジャカルタと西ジャワの中心都市バンドンの142㌔を結ぶ同鉄道は、設計から建設、高速車両ともども中国から全面的なバックアップを受けたものだ。乗車時間を在来線の3時間半から40分へと短縮する。日本と契約直前まで進んでいた建設工事を、中国が「油揚げをさらうトンビ」のようにかすめ取ったいわく付きの高速鉄道だ。
その強引さは、そのルートにも反映されている。首都と地方都市を結ぶ鉄道でありながら、両ターミナル駅は日本案と異なって市内中心部には乗り入れず、市街地の外れに建設された。飛行場なら都市の郊外に造ってもおかしくないが、高速鉄道のターミナル駅が郊外というのは利便性に問題がある。両ターミナル駅間こそ40分と時間は短縮されるが、都市中心部とターミナル駅往来に同様の時間が必要になる。利便性よりも中国側が優先したのは、安く作り多く稼ぐビジネスモデルへの執着からだった。
中国は8年前、わずか4年という短い工事期間を設定した。そのため買収交渉が長引く民間用地をなるべく避けるルートを選定。平坦(へいたん)地ではコンソーシアム参加企業が所有する高速道路脇の緩衝地帯に、山間部は山にトンネルを通し畑を通過させることで、高速鉄道は建設された。
またバンドン側のテガルアール駅は、周囲を田畑で囲まれている。中間駅も同様、民間所有地を避けインドネシア側のコンソーシアム参加企業の所有地を利用した。理由はコストカットと未開発地に駅を設置することで、住宅や工業団地建設など周辺開発事業と合わせて利潤を叩(たた)き出すためだ。
「安く作り、がっぽり儲(もう)ける」。この中国型ビジネスが成功するかどうか蓋(ふた)を開けてみなければ分からないところはあるものの、鉄道事業である以上、まずは交通の利便性を第一にすべきで、地域開発は次の付随事業というのが成功のセオリーというものだろう。
わけてもウィドド大統領が推進中の首都移転で、ジャワ島の地政学的パワーはこのまま拡大していく趨勢(すうせい)にはなく、「捕らぬ狸の皮算用」ともなりかねないリスクを抱えている。何より高速鉄道の工事スケジュールを見れば、どこを向いて組まれているのかは一目瞭然だ。
独立記念日の翌日にウィドド大統領を乗せて試運転する予定は、簡単に延期したものの、中国最大の祝日である国慶節となる10月1日の開業スケジュールは変えていない。インドネシア初となる高速鉄道ながら、同国の記念日ではなく中国の国威発揚に花を添える形での開業予定日を見ても、どこを向いて建設してきたのかが分かる。
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