仏教の求心力が低下 モンゴル 少年僧に性的暴行疑惑 メディアの批判で広がる不信感

チベット仏教の信仰が盛んなモンゴルの仏教界が揺れている。今年6月、同国の仏教信仰の中心とも言えるガンダン寺で、少年修行僧への性的暴行疑惑が浮上したことがきっかけだ。チベット仏教を巡っては4月に最高指導者ダライ・ラマ14世の「口づけ動画」が拡散されたことも相まって、人々の尊敬を集めていたはずの仏教に、拭えない不信感が広がっている。(辻本奈緒子)

今年4月、ガンダン寺の行事に参加する僧侶ら (同寺のフェイスブックより)

首都ウランバートルの中心部に近いガンダン寺で6月15日、少年修行僧(当局発表では14歳未満)が年上の修行僧らから性的暴行を受けたと告発し、複数の現地メディアが報じた。被害を受けたとする少年僧は母親と現地メディアの取材に応じ、「寮で寝ている間に下部を握られた」「インドに行くにはホモでないといけないと言われた」などと証言。仏教が人々の尊敬を集めてきたモンゴル社会に、衝撃が走った。

当局も対応に乗り出し、国家人権委員会がガンダン寺への捜査を進めているという。サルダン・オドントヤ国会副議長は同22日、この件を「一事例として見るべきではない。長年隠されていた虐待かもしれない」とコメントし、組織的関与への疑念を示した。

ガンダン寺は正式名称をガンダンテクチェンリン寺院といい、モンゴル仏教界の最高学府とされる。現地住民の信仰の中心であるだけでなく、日本人向けの旅行ガイドブックにも必ずと言っていいほど掲載される有名な観光スポットとしての顔も持つ。それだけに、性的暴行という疑惑がもたらした衝撃は大きい。

モンゴルで広く信仰されているのはチベット仏教のゲルク派で、僧侶の妻帯を禁じている。ダライ・ラマらも同派に所属しており、モンゴルでは土着信仰のシャーマニズムと並んで文化風俗に身近なものだ。

かつては仏教国でもあったモンゴル。1911年末、ハルハ地方の諸王侯が清朝からの独立を宣言し、活仏ジェプツンダンバ・ホトクト8世(ボグド・ハーン)を君主とするボグド・ハーン政権を樹立した。しかし24年にボグド・ハーンが死去するとモンゴルは君主制を廃止、ソ連に次ぐ世界2番目の社会主義国となった。社会主義政権下では寺院の閉鎖や僧侶らの粛清が行われたものの、民主化運動の始まる90年ごろには復興が進み、ガンダン寺も現在のような形になった。

モンゴルで仏教と同時に絶大な尊敬を集めていたのがダライ・ラマ14世で、遊牧民の家庭でもその顔写真が飾られているのが見られるほどだ。しかし今年4月にダライ・ラマ14世が仏教集会で抱擁を求めてきた少年に口づけをし、自らの舌を出して吸うよう促した動画が世界的に波紋を呼んだ際、モンゴルでもSNSを中心に多くの非難の声が噴出。こうして仏教への信頼が揺らぎ始めていた時、決定的な不信感を招いたのが、今回起こったガンダン寺での性的暴行疑惑だった。なおダライ・ラマ14世は、モンゴル政府が中国の圧力を受けたことで、2016年を最後にモンゴル訪問を事実上禁じられている。

ガンダン寺側は捜査に協力しつつ事件の真偽について当局の判断に委ねる一方、性的暴行への組織的な関与は否定する姿勢を見せている。実際、前のめりのメディア報道が事態を過熱させている側面も否めない。

ガンダン寺側が6月23日に開いた記者会見で、同寺のテレビ局「ガンダンTV」のオドガリド社長は「(疑惑が)事実ならば、われわれにも責任はある」と述べた上で、「法的機関が事件を断定していないのに、公共の電波による批判は限度を超えている。政治家までもが事実であるかのように発言するのは適切ではない」と苦言を呈した。

またガンダン寺の僧侶チョイジルスレン氏は同じ記者会見で、同性間の性的暴行は「あってはならないこと。教義では100%反対している」と断言した。この発言で、暴行への組織的な関与を否定した形だ。

オドガリド氏によると、この疑惑から仏教学校への退学願は出ていないという。今後の動向、影響が注目される。

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