トップ国際アジア・オセアニア「ポスト親軍政治」始動へ タイ総選挙  危惧されるクーデター再来

「ポスト親軍政治」始動へ タイ総選挙  危惧されるクーデター再来

14日、タイ下院総選挙の開票が進む中、バンコクにある 党本部を出るプラユット首相(AFP時事)

タイ下院総選挙では、軍政脱却を訴えた野党「前進党」が第1党に躍り出た。これと好対照だったのが親軍与党の惨敗ぶりだ。9年前のクーデター以後、長く続いた親軍政治に国民は飽き飽きしていた結果だ。クーデターを主導したプラユット陸軍司令官が首相に就任した当初こそ、国益を第一義とした踏ん張りがあったが、長期政権下で利権政治と堕した。(池永達夫)

4年前の総選挙で新党ながら第3党だった革新系「新未来党」を解党に追い込み、幹部も不敬罪で逮捕したのもプラユット政権だった。「前進党」は「新未来党」の後継党だ。

親軍政権は出る杭(くい)を打ったが、タイ国民がその親軍政党に審判を下した格好だ。

これは、31年前の政変を彷彿(ほうふつ)させる。

クーデターを起こしたスチンダ陸軍司令官(当時)が「自分は首相にはならない」と公言しながら首相に就任した時、「スチンダ辞任」を求める50万人ものデモ隊が王宮前広場に集結し、国を二分する流血騒動にまで発展した。

見かねたプミポン国王(当時)が「このままでは国家そのものが滅んでしまう。瓦礫(がれき)の上で勝利の旗を振って何の意味があるのか。デモ隊は家に帰れ。軍人は兵舎に帰れ」と諭し、一件落着となった経緯がある。

ただ、今回の総選挙で親軍政権にはピリオドを打ったものの、「兵舎に帰る軍人」とはならない可能性がある。

議席数で第1党、第2党を制し下院議席数で過半数を超えた野党ながら、首相指名は下院議員500人と軍政下で任命された上院議員250人の合計で決まる。上院議員はほぼ全員、親軍政党に有利な投票をする。親軍政党は選挙には負けたが、前政権の遺産で政治関与の有効なカードを持っている。

それでもたとえ親軍政党が連立政権入りしたとしても、軍後退の形でポスト親軍政権が始まることになるのは必至だ。

注意を要するのがクーデター再来だ。連立の組み合わせでもめ、政治的空転が始まったとき、軍が再び伝家の宝刀を抜く可能性が残る。

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