トップ国際アジア・オセアニアフィリピン、地方政治家襲撃事件が多発 武装集団が州知事など射殺

フィリピン、地方政治家襲撃事件が多発 武装集団が州知事など射殺

国軍、除隊兵士の監視を検討

フィリピンで自治体の首長など、地方政治家に対する襲撃が相次いでいる。犯行はいずれも計画的であり、武器の使用に精通した元国軍兵士の関与も判明。除隊した兵士がそのスキルを生かし犯行に加わるという構図が表面化するなど、国軍は独自に監視部隊を組織する方針を示している。また、米国務省は報告書でフィリピンの地方政府や治安組織で不処罰が横行し、汚職や超法規的殺害につながっていると警告を発している。(マニラ・福島純一)

フィリピンのデガモ東ネグロ州知事の生前の写真(同氏フェイスブックより)

東ネグロス州で3月4日、同州のロエル・デガモ知事が自宅の敷地に侵入してきた武装集団によって射殺される事件があった。州知事のほか一緒にいた民間人8人も犠牲となるなど、マルコス政権下で有数の残虐事件となった。容疑者は戦闘服を着用した武装集団で、明らかに訓練を受けている動きで敷地に侵入するとデガモ知事らに一斉に発砲。現場から迅速に撤収する様子が防犯カメラに記録されていた。

事件の翌日には警察の追跡捜査により、元国軍兵士2人を含む3人の容疑者が逮捕された。これまでに実行犯を含む10人以上が事件への関与で逮捕され、そのうち1人は銃撃戦で射殺された。

事件の首謀者として名前が挙げられているのが、殺害されたデガモ知事の政敵であるアーノルフォ・テベス下院議員だ。事件発生時には病気の治療という名目ですでに海外に渡っていた。マルコス大統領は、帰国して事件に向き合うようテベス氏に求めたが、「命に危険が及ぶ」との理由から帰国を拒否し続けている。デガモ氏とテベス氏は前回の知事選の結果をめぐり、法廷闘争を抱えていたことが分かっている。

デガモ知事殺害の数週間前には、南ラナオ州のアディオン知事が約10人の武装集団に襲撃される事件が起きている。アディオン知事は重傷を負いながらも生き残ったが、護衛の警官3人と運転手が死亡した。これらの事件を含めマルコス政権下では7件の地方政治家に対する襲撃が発生しており、治安対策の強化が急務となっている。

国軍は元兵士の犯罪関与が相次いでいることを問題視し、除隊した兵士の行動を監視する特別部隊の編制を検討していることを明らかにした。

特に無断欠勤などで不名誉除隊となり、年金や就職の機会を失った元兵士が生計を求めて犯罪組織に所属したり、殺し屋になったりするケースが複数確認されているという。このような元兵士の動向を監視する一方で、就職支援なども行う方針だ。デガモ知事の殺害事件では、違法薬物や無断欠勤で除隊された元兵士が実行犯として関与していたことが分かっている。

米国務省は2022年度の国別報告書で、フィリピンで「不処罰」が依然として深刻な問題であると指摘した。報告書では警察や軍による超法規的殺人などの人権侵害のほか、地方政府関係者や有力者が不正行為や汚職を行っても罰せられないケースがあると述べ、フィリピン政府に対し適切な措置を講じることを求めた。

マルコス大統領は一連の事件を受け、内務自治省に対し政治家が囲っている私兵団や武装集団の解体を急ぐよう命じた。実際、デガモ知事殺害の容疑がかけられているテベス下院議員が所有する製糖工場で行われた家宅捜索では、複数の高性能アサルトライフルやロケット弾など軍隊並みの武器が押収され、私兵と見られる3人が逮捕されている。

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