インドネシア初となる高速鉄道が、中国の後押しを受け7月に開通する。同鉄道は、首都ジャカルタと西ジャワの中心都市バンドンの142キロを結び6月に完工する予定だ。高速鉄道は乗車時間を在来線の3時間半から40分へと短縮する。日本と契約直前まで進んでいた建設工事を、中国が「油揚げをさらうトンビ」のようにかすめ取った、いわく付きの高速鉄道は、果たして期待通りの運行となるのか探った。(池永達夫)
先月末の建設進捗(しんちょく)状況で84%となっていることから、それこそ駆け込み開業となる見込みだ。
当初、4年間の建設工事を見込み、2019年には完成するはずだった高速鉄道は、遅延に遅延を重ねてきた経緯がある。それだけに今回は、何としても成し遂げるという意気込みが感じられる。無論、中国としては面子(めんつ)だけではなく冷徹な世界戦略の計画の下で動いている。
その計画とは、2012年に中国共産党総書記に就任した習近平氏肝煎りの一帯一路だ。一帯一路の基本構想はユーラシア大陸の東西を北の陸路と南の海路で結び、中国を中心とした巨大経済圏を構築しようというものだ。その一角を成す東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する中国の思い入れは大きなものがある。
理由は、欧州連合(EU)に匹敵する人口規模を誇り、中国産品を売り込む将来の巨大マーケットとして期待されることと、地政学的要衝に位置しているからだ。
そのASEAN北部に位置するラオスには、中国雲南省の昆明と連結した高速鉄道を建設し、21年12月に開通、現在、運行中だ。さらにASEAN南部のインドネシアに高速鉄道を敷設し、東南アジアの南北が軌道幅など中国規格で固められた。
ただ、そのデモンストレーション効果が大きなものになるかどうか疑わしい状況だ。
まず、高速鉄道とはいえ利便性に問題がある。
両端のターミナル駅は、日本案と異なって市内中心部には乗り入れず、市街地の外れに建設された。バンドン側のテガルアール駅は、周囲を田畑で囲まれている場所だ。中間駅も同様、民間所有地を避けインドネシア側のコンソーシアム参加企業の所有地を利用した。理由はコストカットと未開発地に駅を設置することで、住宅や工業団地など周辺開発事業と合わせて利潤を叩(たた)き出そうというのだ。
この中国型ビジネスが成功するかどうか蓋(ふた)を開けてみなければ分からないところはあるものの、まずは交通の利便性を優先すべきで、地域開発は次のステップというのが成功のセオリーというものだろう。
建設コスト超過問題もシリアスだ。インドネシア政府は当初、総工費を55億ドル(約7370億円)と見積もっていたが、2年前には61億ドル(約8174億円)に増加、さらに現在、80億ドル(約1兆720億円)にまで膨らんでいる。
無論、近年の資材高騰が顕著で出費がかさむのは避けがたい市場動向があるものの、「安く請け負って、高い請求書を突き付ける」中国式ビジネスへの疑惑が広がれば、結局は自分で自分の首を絞める格好になるだけだ。
さらに安全性の問題がある。まず、6月に完工し、7月に運行開始というスケジュールがタイトだ。わが国であれば通常、試運転は1年間を要する。その試運転がわずか1カ月というのは、政治日程優先ではとの疑問符が付く。
また、高速鉄道建設工事現場で2カ月前、作業用の列車が暴走し中国人労働者2人が死亡、初の死亡事故となった。これが遅れた建設工事を早める焦りからきたものであれば、他にも手抜き工事など安全性に関わるものが潜んでいる可能性がある。
中国浙江省温州市でも11年7月、高速鉄道の追突、脱線事故が起きている。
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