フィリピン、元日に国際空港が麻痺 300便、6・5万人に影響

管制障害、安全保障上の懸念も

ニノイ・アキノ国際空港のホームページ

フィリピンで元日、マニラ首都圏にあるニノイ・アキノ国際空港の管制システムに障害が発生し、すべての航空便の発着が停止するトラブルが発生した。新年の旅行客で混雑する国の玄関口は大混乱に見舞われ、数万人の乗客がスケジュールの変更を余儀なくされた。管制システムのレーダー喪失は国家安全保障に関わるとの懸念もあり、原因究明と改善を求める声が強まっている。(マニラ・福島純一)

管制システムの障害は元日の午前中に発生し、午後8時頃に限定的に復旧した。この障害により同空港に発着を予定していたすべての国際線と国内線、約300便が欠航や遅延、目的地の変更などを余儀なくされた。

影響を受けた乗客は6万5000人に達し、空港内は途方に暮れる人々で溢(あふ)れた。

当時の状況について日本から帰国の途に就いていた通信大手PLDTのパギリナン会長はツイッターで、「空港の航法施設がダウンしたとのことで、3時間のフライトの後に羽田に戻らなければならなくなり6時間の無駄な時間となった」と説明。「観光やビジネスへの損失は計り知れない。こんなのはフィリピンだけだ」と失望を表明し、光ファイバーや電源確保などの分野で必要ならば協力すると名乗り出た。

翌日に管制システムは完全に復旧したが、フライトスケジュールの調整など混乱が続き、空港当局は完全な正常化には3日間ほどかかるとの見方を示した。

フィリピン民間航空局(CAAP)によると管制システムが停止した原因は無停電電源装置(UPS)の故障で、この際にバックアップ装置が作動せずに電源を喪失。さらに電源の再接続を行ったが、誤って規定の220ボルトではなく380ボルトを主要機器に流して破損が生じ、管制システムの全面停止に至ったという。

この管制システムは日本の国際協力機構(JICA)の110億ペソ(277億円)の融資によりドゥテルテ政権下の2019年に運用が開始された。

しかし導入された当時、すでにこのシステムは調達から約10年が経過し最新ではなかったという情報もある。

CAAPはさらなるシステムの更新を求めており、その予算を130億ペソ(327億円)と見積もっていた。今回問題となった電源部分にJICAの事業が含まれていたのかは不明だ。

CAAPの元局長であるディマギバ氏は、地元メディアに対し現在のCAAPには航空航法分野の専門家が不足していると指摘。マルコス大統領が「友人」ではなく有能な人材を配置すべきだと語った。

またフィリピンのシンクタンクであるインフラウォッチPHは、今回の障害について「国際的な恥でありCAAPの高官は辞任すべき」と非難。予算不足との言い訳は受け入れられないと主張した。

エヘルシト上院議員は今回の問題を「サボタージュか深刻な無能さによるもの」と痛烈に批判。また管制システムのレーダーが機能を失うことは航空便だけでなく、国家安全保障の問題にも関わると指摘。このような問題を二度と起こさないためCAAP関係者を招いて上院で公聴会を行う方針を示した。さらにマルコス政権が推進する同空港の民営化に改めて反対の姿勢を示した。

昨年12月にバウティスタ運輸相は、同空港の民営化を進めるとの考えを明らかにしていた。民営化の話は前政権でも浮上していたが、ドゥテルテ前大統領がこれを拒否していた経緯がある。

同空港をめぐっては、複数のランキングで「世界最悪の空港」や「ストレスの多い空港」と酷評されるなど歴代政権で近代化が急務とされていた。今回の問題で再び民営化の是非をめぐる議論が高まりそうだ。

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