トップ国際アジア・オセアニア対米関係修復する比大統領 南シナ海問題、中国を強く牽制

対米関係修復する比大統領 南シナ海問題、中国を強く牽制

米副大統領とパラワン島視察

カンボジアで開かれたASEANサミットに出席したマルコス比大統領=11月12日(UPI)

ハリス米副大統領がフィリピンを訪問しマルコス大統領と会談を行った。米政府は中国が軍事拠点を増やし続ける南シナ海において、米軍の存在感を再び高めることを試みようとしている。そのためには比との間で交わした防衛協力強化協定(EDCA)の強化が必須となる。具体的には比国内に米軍が利用できる拠点をさらに増やし周辺有事に備えるというものだ。(マニラ・福島純一)

11月21日にマルコス氏と会談したハリス氏は、「南シナ海でフィリピンの公船や航空機が武力攻撃を受けた場合、米国の相互防衛の公約が発動される」と安全保障に関して言及。さらに「われわれはあなた方と共に立ち向かう」とも述べ、両国の同盟関係は強力なものであることを強調した。

これに対しマルコス氏も「米国抜きのフィリピンの未来は考えられない」と述べ、米国とのパートナーシップが安全保障においてより重要になっていると指摘。さらに、状況は急速に変化しているとの考えを示し、適切な対応には両国関係の強化が重要だとの認識を示した。

バカロ国軍参謀総長によると、米政府は2014年に締結されたEDCAに基づき計画された5カ所の拠点に加え、今回さらに5カ所を追加して建設するよう求めているという。これらの拠点には領有権問題の最前線であるパラワン島も候補地として含まれており、米軍がこの地域での存在感を高め、中国に圧力をかける狙いがあることは明確だ。

22日にそのパラワン島の沿岸警備隊を訪問したハリス氏は演説で、「中国の南シナ海における広大な海洋権益を否定する2016年の国連仲裁裁判所の判決を支持する」と改めて強調。「米国は同盟国として南シナ海での威嚇に直面するフィリピンと共に立っている」と述べ、同海域で軍事施設を拡大する中国を強く牽制(けんせい)した。

一方、中国もハリス氏の訪問を前に牽制的な行動を強めており、訪問直前の19日に中国製ロケットの残骸をめぐり比海軍と中国艦艇が南シナ海で対峙(たいじ)する事態が発生している。比海軍によると、パグアサ島沖で発見されたロケットの一部とみられる残骸を曳航(えいこう)していたところ中国艦艇に牽引(けんいん)用のケーブルを切断され、そのまま残骸を奪われたという。しかし、中国側は「友好的な協議」の上で残骸が引き渡されたと主張し、真っ向から対立。比外務省はこの問題をめぐり外交的な抗議を行う方針を示している。

11月にタイで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で中国の習近平主席との会談に臨んだマルコス大統領は、「二国間の関係は南シナ海の領有権問題によって規定されるべきではない」と述べ、領有権問題をめぐる対立を避けるドゥテルテ前政権の外交路線を維持する姿勢を強調した。

一方、5月に国連総会に出席するためニューヨークを訪問したマルコス氏はバイデン米大統領との初会談で、「地域の平和維持において米国の役割はフィリピンで非常に高い評価を受けている」と述べ、南シナ海をめぐる問題で両国関係の重要性を強調。バイデン氏も「困難な時期もあったが私たちは重要な関係であり、同じ考えであることを願っている」と述べ、ドゥテルテ前政権で冷え切った外交関係を修復したい考えを示した。

マルコス氏は表立って中国との対立を避ける一方、南シナ海の領有権をめぐっては中国と真っ向から対立したアキノ政権のように米国やASEANを巻き込んだ多国間協議を試みる考えも示している。米国の関与を完全に拒否し中国との二国間協議に固執したドゥテルテ前大統領とは一転して、親米的な外交を展開する可能性が高まっている。

中国の台湾進攻への警戒が強まる中、フィリピンは台湾に距離的に近く有事の対応もしやすいという米軍側のメリットがある。

それだけでなく台湾はフィリピン人労働者の主要な出稼ぎ先でもあり、台湾をめぐる安全保障は対岸の火事ではない。アジア地域におけるフィリピンが果たす安全保障の役割は、さらに重要性を増しそうだ。

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