
フィリピンのルソン島に超大型の台風16号(カーディン)が上陸し甚大な被害を与えた。台風はマニラ首都圏に近いコースを横断し、特にルソン島中部と北部に大きな爪痕を残した。避難者は4万6000人を超え、台風被害による生鮮食品の値上がりが発生するなどインフレの加速も懸念されている。(マニラ・福島純一)
台風16号は9月26日にルソン島中部に上陸した。その日はちょうど13年前の2009年に台風オンドイがマニラ首都圏を直撃した日でもあり、当時甚大な被害を受けた地域では緊張が走り、前日から各自治体が教育機関や役所の閉鎖を発表。大手ショッピングモールが車両の水没対策で駐車場を開放したり、携帯電話の充電ステーションを開設するなど緊急態勢が敷かれた。
台風オンドイで多数の犠牲者を出した首都圏のマリキナ市では、川の増水に備え3000世帯が学校などの避難所に自主的に避難を行ったが、幸いマニラ首都圏では大きな被害には至らなかった。
政府の災害対策本部によると、台風による死者は9月30日の時点で12人に達し、行方不明者は6人、負傷者は52人となっている。特に洪水などの被害が大きかった首都圏近郊のブラカン州では、取り残された住人の救援に向かった救助隊員5人が鉄砲水に流され溺死するなど、痛ましい犠牲も出ている。
台風上陸から1週間が経過した2日の時点でも、避難所生活を強いられている被災者は4万6000人となっており、新型コロナウイルスの集団感染など健康面への影響も懸念されている。
農務省によると台風による農業部門への被害は10月3日の時点で30億ペソを超える規模まで拡大している。特にコメへの被害が甚大となっており、全体のうち20億ペソを占めた。すでにマニラ首都圏の公営市場などでは、野菜などの生鮮食品を中心に10%から20%の値上げが確認されるなど、インフレに拍車を掛ける状態となっており、庶民の生活に打撃を与えている。
またインフラへのダメージは3億ペソを超え、その多くの被害がルソン島北部のカガヤンバレー地方に集中した。台風の影響を受けた家屋は約5万8000戸に及び、そのうち約7000戸が全壊した。
労働雇用省は台風の被災地域で4億5000万ペソの緊急雇用プログラムを実施し、台風で職を失った被災者を支援する方針を明らかにした。すでに3万人以上が地方自治体と協力する形で雇用され、被災地での廃棄物の処理や清掃などの復興活動に従事している。
このように台風の影響が収束しない中、マルコス大統領がF1グランプリ観戦のため国を離れ、物議を醸している。マルコス氏は2日に開催されたF1グランプリを観戦するため、9月30日にマニラからシンガポールにたっていたことが分かった。この訪問は公式には発表されず、同行者のSNSへの投稿などで発覚した。旅行には息子のサンドロ・マルコス下院議員やそのガールフレンドと噂(うわさ)される女性議員も同行するなど、私的な観光旅行のために公費を使っているとの批判が巻き起こった。
渦中のマルコス氏は、自身のフェイスブックで「ビジネスを盛り上げるにはゴルフをするのが一番と言われていますが、私はF1であると言います。なんて有意義な週末なのでしょう!」とキャプションを添えてシンガポールの実業家と一緒の写真を投稿。あくまでも公的な訪問であることを強調した。
しかし、左派系活動家団体バヤンはF1観戦を「無神経で不必要で無責任な旅行」だと非難。台風被災者への同情の念が欠けているとしてマルコス氏の資質に疑問を呈した。
この旅行には空軍が所有するビジネスジェットが使用された可能性も指摘され、複数の議員が、旅行に公費が使われたのかどうか開示するよう求めている。