
フィリピンで中国人が運営するオンラインカジノ事業が、誘拐や人身売買などの犯罪の温床になっているとして社会問題化している。同事業は税収の面から優遇されてきた経緯があったが、フィリピンが国際的な人身売買の拠点となりかねない状況となっており、政府内からも同事業の禁止を求める声が出始めている。(マニラ・福島純一)
フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター(POGO)としてフィリピン国内で認可されている中国系のオンラインカジノ事業。これらのオフィスが入居するビルの周辺には、中国系のコンビニや飲食店が乱立するなど、親中派と言われたドゥテルテ前政権で中国人労働者の数は爆発的に増加。中国人の不法入国をめぐる入管職員の大規模な汚職も明るみとなったが、それでも政府の財源として継続されてきた。
しかし今年に入り、POGO事業に関連する誘拐事件が多発し社会の注目を集めるようになる。被害者はPOGO事業の中国人従業員で、誘拐されて親族に莫大(ばくだい)な身代金を要求されたり、別の事業所に売り飛ばされて強制労働を強いられたりするなど非常に悪質で、フィリピンを舞台に中国人が同胞を食い物にするという構図だ。
国家警察は今年1月から9月までに27件の誘拐事件があり、そのうちPOGO関連は15件で、昨年の同時期と比べ25%の増加だと主張している。
しかし中国商工会議所は9月上旬に、過去10日間で56件の中国人が関連する誘拐事件があったと報告。人質の女性を強姦してそのビデオを親族に送り付けたり、ほかの犯罪組織に人質を売り飛ばしたりするなど凶悪な手口が横行しているとして、政府に対策を求めた。これを機に議会でもPOGO関連の事件が注目される結果となり、入国管理局や娯楽賭博公社などの関係機関に実態調査を求める声が強まった。
9月17日にはパンパンガ州アンヘレス市にあるPOGO事業所で、強制労働させられていた43人の中国人が警察によって救出され、人事担当者が逮捕された。
また8月にはPOGO事業の求人に応募するためフィリピンを訪れたカンボジア人とベトナム人の女性が、中国人によってアパートに監禁され性奴隷にされていたことも明るみとなった。女性の1人がアパートの3階から飛び降り、助けを求めて事件が発覚し、中国人容疑者が逮捕された。
被害者が違法滞在者であることも多く、警察に報告されないケースも相当数あるとみられ、表面化する事件は氷山の一角にすぎないとの見方もある。
オンラインカジノをめぐっては、ドゥテルテ前政権下でもたびたび問題となっていた。国内での賭博行為を禁止している中国政府からもPOGO事業を禁止するよう要請を受けたが、ドゥテルテ前大統領は政府の税収を優先し、これを拒否した経緯がある。
またPOGO事業関連の事件は、当事者が中国人同士ということもあって、あまり問題視されない傾向もあった。これを利用し中国の犯罪シンジケートがPOGO事業を拠点化し、人身売買や身代金目的の誘拐などをエスカレートさせる結果を招いた。
司法省のレムラ長官は、認可が切れた216社のPOGO企業で、少なくとも4万人の中国人が違法に働いている可能性を指摘。これらの不法滞在者を一度に拘束することは物理的にも人道的にも不可能に近いため、迅速な強制送還の実施に向け中国大使と話し合っていることを明らかにした。
また財務省のディオクノ長官は、犯罪多発による社会的コストの増加や国際的な評判リスクを指摘し、POGO事業の廃止を支持した。同長官は中国やカンボジアでは同様の事業はすでに禁止されており、規制が緩いフィリピンがその受け皿になっていると指摘。2020年には72億ペソに達した同業界からの収入も21年には39億ペソにまで落ち込んでおり、廃止しても大きな問題にはならないとの見解を示した。