
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領が25日に、就任後初となる施政方針演説を行った。約70分間の演説では観光産業の復興やインフラ事業、エネルギー問題などの経済分野に焦点が置かれ、ドゥテルテ前政権で大きな問題となっていた人権問題や報道の自由などへの言及はなかった。(マニラ・福島純一)
まずマルコス氏は健全な財務管理を強調し、歳入の増加を目指す方針を示した。具体的には外国投資規制の緩和やエコゾーンの設置による外国企業に対する誘致の強化に加え、国内で普及するアマゾンやグーグル、ネットフリックスなどのデジタルサービスへの課税も検討する。さらに国内歳入庁のオンライン処理など手続きの簡素化を促進し納税の加速を図る。
国内の主力産業である観光については、重要な経済開発ツールであると指摘し産業の活性化が国内雇用の促進にもつながると強調。観光スポットへのアクセスを容易にし外国人観光客の訪問を容易にするため、地方空港の国際空港化や道路インフラの改善などを掲げた。また、国際空港を増やすことで乗客が集中するマニラ国際空港の混雑を解消できるとした。
外交政策に関しては、具体的に国名は出さなかったが、「フィリピンの領土を1インチも放棄するつもりはない」と領土問題で妥協はしないことを改めて強調。国益を第一の指針として外交政策に向き合うと明言した。
新型コロナウイルスをめぐる問題に関しては、「変異種の脅威が存在している」と警戒を促しながらも、再びロックダウン(都市封鎖)をするような経済的な余裕はないと強調。国民の健康と経済のバランスが重要だと述べ、引き続きブースター接種の拡大を進める方針を示した。
インフラに関しては、経済のバックボーンであり成長と雇用を促進する上で非常に必要であると強調。ドゥテルテ政権のインフラ計画を引き継ぐだけでなく、官民パートナーシップを活用して事業を活性化させる方針を示した。特に近代化が遅れている鉄道開発を促進させ、交通問題を解消する意欲を見せた。
またエネルギー問題では、経済成長には安価で信頼性の高いエネルギーが必須だと指摘。太陽光や風力による自然エネルギーの活用を拡大する一方で、電力の安定供給のため原子力発電に関する戦略を再検討する時期にきていると述べ、小規模なモジュール式原子力発電所を導入する可能性を示唆した。
今回の施政方針演説に対し、野党や人権団体などからは強い批判も出ている。
ホンティベロス上院議員は、多くのインフラ事業計画が提示されたが、資金調達に関する説明不足が目立ったと指摘。明確なビジョンのない「ウィンドーショッピング」のようだと批判した。
また、ドゥテルテ前政権で超法規的殺人などを批判してきた人権団体・カラパタンは、マルコス氏が演説で人権問題に言及しなかったことを「不気味な沈黙」と表現し失望を表明。前政権で問題となっていた報道の自由やフェイクニュース、政府の説明責任などについて、引き続き改善はされないとの悲観的な見方を示した。ドゥテルテ政権では66人の弁護士や28人の首長・副首長、さらに247人の人権擁護者が殺害され、国際社会でも注目を集めていた。
選挙ではドゥテルテ政権の継続を強調し支持を集めてきたマルコス氏だが、コロナ禍が収束の兆しを見せるなど国を取り巻く状況も大きく変化している。本格的な経済復興に向け、政策でも独自色を出していくことが求められそうだ。