ミャンマーで軍によるクーデターから1年半が経(た)とうとしている中、軍に協力する民兵組織ピューソーティーの動きが目立つようになってきた。武装した私服姿のピューソーティーは、村落の焼き討ちや民主派活動家の拘束などを行っている。クーデター政権にとってみれば、軍や警察の手を汚すことなく反軍政派の動きを封じ込めることができるとともに、ワンクッション置くことで国際社会からの直接的な批判をかわすことも可能となることから、“便利屋”として悪役を押しつけているふしがある。(池永達夫)
最近、ミャンマーでは「ピューソーティー」と呼ばれる私服の武装集団が現れ、村落の焼き討ちやターゲットとなった民間人を襲撃し逮捕する事件が頻発するようになってきた。このピューソーティーの構成員は、引退軍人や軍政の翼賛団体・連邦団結発展党(USDP)のメンバー、民族宗教保護協会(マバタ)などから成る。マバタは、連邦団結発展党と強い関係を持つ仏教出家者を中核とした結社だ。
なおピューソーティーの主要目的は、反軍政民主派の武装組織・国民防衛隊が侵入した場合に迎え撃つこととされる。ただ実質的には、地方での民主派の活動の芽を摘むため、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(LND)支持者や民主派に関係する人物を排除しようと、軍政にとって不都合な人物をごぼう抜きにしている側面もある。
ピューソーティーは、いわばミャンマー版新選組。軍や警察の代理人として、軍政による治安維持を名目に反軍政勢力に目を光らせる。このため厳格な武器管理を行っている軍政下にあって、ピューソーティーには銃の保持が許されている。
かつて軍情報局出身のキンニュン氏が首相時代、国内統治の右腕として諜報機関に大きな権力を付与していたように、現軍政はピューソーティーに権力を付与している。
40万人の兵士を擁する軍といえども、広大な国土を抑えきることは至難の業だ。何よりいまだに武装した少数民族が支配する地域が数多く存在する。軍がしばしば村落の焼き討ちの暴挙に出たのも、いったん、軍の支配下に治めた地域でも一たび軍が引き上げると、再び元のもくあみに戻ってしまうことになりがちだからだ。
そうした軍の弱点をピューソーティーがカバーし、民主派勢力と対峙(たいじ)している構造がある。
なお中部の都市マンダレーで今春、NLD関係者が相次いで殺害されたが、この実行犯がピューソーティーではないかとの疑惑が浮上している。軍は関与していないと否定する中、国民の間では民兵組織ピューソーティーの過激化に懸念が広がりつつある。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ミャンマーに特使を派遣し暴力拡大に歯止めをかけたい意向だが難航中で成果が出ないままだ。
昨年2月にクーデターを起こし、民主派政権の卓袱(ちゃぶ)台返しを行った軍は、民主派勢力の抵抗を力で抑え込んできた。別動隊ピューソーティーを活用しているのも、その一環だ。
さらに軍政トップのミン・アウン・フライン氏は抵抗勢力をテロリストと名指しした上で「テロリストと交渉することはない。全滅させる」と強い言葉で威嚇した。
一方でNLDはせんだって、国軍が来年8月までに実施しようとしているやり直し総選挙を拒否するとの声明を発表。このままだと、ミャンマー社会の分断がさらに深まり、元に戻すのに困難が伴うことが懸念される。