
ウクライナ紛争に端を発する世界的な石油価格の高騰がフィリピンを直撃している。特に大きな影響を受けているのがバスなどの公共交通機関で、採算が合わずに運行を取りやめる運転手が増加。通勤者への負担が社会問題となるなど、政府に対応を求める声が強まっている。(マニラ・福島純一)
現在、マニラ首都圏におけるガソリン価格は6月29日現在、リッター85ペソ前後(約210円)と今年初めと比べ約30ペソの値上がり。急激な円安の影響もあるが、日本よりも高い価格だ。そしてガソリンよりも急激な値上げに見舞われているのが軽油で、マニラ首都圏ではガソリンよりも割高なリッター90ペソ前後(約220円)で販売されており、今年初めと比べて上げ幅は約45ペソと、以前の3倍近くの値段まで高騰している。
この軽油の高騰の影響を最も受けているのが、庶民の足であるバスやジープニー(小型の乗り合いバス)などの交通機関だ。ガソリンより安価で燃費が良いという軽油のメリットが完全に失われ、料金体系が崩壊してしまっているのだ。
ガチャリアン上院議員はエネルギー委員会で、軽油価格の高騰により地方に向かう長距離バスの採算が取れなくなり、20~30%しか運行していない現状を明らかにした。そして、運行を取りやめた車両は約5600台に達しており、3万人近い運転手や車掌などの従業員が失業していると危機的な状況を訴え、燃料に対する課税の一時停止や、燃料補助金の支給などの早急な支援を政府に求めた。
庶民の足であるジープニーも苦境に陥っている。政府は初乗り料金を1ペソ値上げし10ペソにすることを承認したが、軽油価格の高騰にまったく追い付かず焼け石に水の状態だ。
地元メディアによると、ジープニー運転手は1日18時間労働をしてもマニラ首都圏の最低賃金570ペソ(約1410円)に到底及ばない300ペソ(約745円)にしかならず、家族を養うのが難しい状況にあるという。
ジープニーは運転手が所有者から1日いくらと日払いで車両を借り受けるシステムで、燃料費は運転手の負担となり、それを差し引いた運賃が運転手の収入となる。燃料価格の値上げはそのまま運転手の収入減少につながる酷なシステムだ。
そのため多くの運転手が運転を停止し、やむなくほかの仕事を探す者も少なくないという。
政府はマニラ首都圏の幹線道路を走るバスや高架鉄道を無料乗車にするなど、通勤者への支援を行っているがまったく足りておらず、ラッシュアワーには交通手段を探す労働者が、数時間待ちの長い列をつくる光景が日常となっている。
現地で暮らす在留邦人たちからは、流しのタクシーだけでなくグラブカーなどのアプリを使った配車サービスの車両もつかまらないなどの声が相次ぐなど、燃料価格の高騰は外国人の生活にも大きな影響を及ぼす。
政府には現状に即した運賃の改定など早急な対応が求められているが、ドゥテルテ大統領が6月30日をもって退任し、マルコス大統領への交代の真っ最中ということもあり、大きな対策が取れない状況がここしばらく続いている。
まずは国民の生活を脅かす燃料価格の高騰への速やかな対応が、新たに発足したマルコス政権の試金石になりそうだ。