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経済危機に翻弄(ほんろう)されるスリランカが1948年の独立以来、初のデフォルト(債務不履行)に陥った。採算度外視の無謀なインフラ整備で債務を膨らませてきたスリランカが当然、支払わないといけないつけではあるが、「債務の罠(わな)」による中国の〝野心の餌食〟となっている側面も見逃せない。(池永達夫)
アジアと中東を結ぶ海上交通の要衝にあるスリランカ。インド洋の東西を船舶が動く際、スリランカ沖を通過しないといけないが、余りに南下すると暴風圏に巻き込まれることから、タンカーや貨物船はスリランカ南端のハンバントタから数十キロ沖圏内を航行ルートに定めている。マラッカ海峡をにらむシンガポールほどではないにしても、ハンバントタ港の地政学的価値は十分高いものがある。いずれにしてもスリランカは、その地政学的重要性からパワーゲームの舞台となってきた経緯がある。
とりわけ中国はそのハンバントタ港を整備し、今では閑古鳥が鳴くハンバントタ国際空港も完成させた。いずれもスリランカ政府の借款によるものだ。
しかし、インフラ整備のため中国から多大な資金を借りたものの、利益をたたき出すどころか増えるのは赤字だけ。結局、借金返済の猶予と引き換えに、中国へ99年間に及ぶハンバントタ港租借権を付与し、施設や土地を明け渡さざるを得ない「債務の罠」に落ちてしまった。
こうした中国による「債務の罠」はハンバントタ港だけでなく、パキスタンではグアダール港の43年間租借、またジプチに自由貿易区と鉄道を建設した見返りに海外初となる軍事基地を建設している。
中国の野心が先行し、相手の国に寄り添わない融資システムは、債務国の経済的な自由と自立の道を奪い、中国依存を深めていく〝アリ地獄〟のようなものだ。
中国はそれをテコに、経済だけでなく政治や軍事面でも影響力を増大させる。
スリランカの対外債務は510億ドル。中国がユーラシア大陸の東西を結ぶ経済圏「一帯一路」プロジェクトで、スリランカに費やした110億ドルも含まれる。
今回のデフォルトは、4月18日に7800万ドルの利払いができず、先月19日まで1カ月の延長が認められたが、外貨調達ができなかったためだ。スリランカの対外債務額は126億ドル、年内に期限の来る利払いは1億634万ドル。債務不履行が連続すれば、国家は破産状態となる。
目の前に迫っているのは、7月に国債償還期限を迎える10億ドル(約1250億円)の支払いだが、同国のアリ・サブリ前財務相は、「今後半年で約30億ドルの支援(つなぎ融資)が必要だ」と訴えていた。
スリランカ政府は返済延期と25億ドル相当の緊急支援を中国に要請したが、中国は3100万ドルの「緊急人道支援」や人民元スワップを提供したにすぎない。
なおスリランカはコロナ危機で外貨を稼ぎ出す観光業が大打撃を受けた。その外貨準備の急減で輸入決済が滞る懸念が高まる。食糧危機が顕著な上、デフォルトによって政府職員らの給与支払いも不能、学校は休校となった。また計画停電の実施やガソリンを筆頭に供給不足に伴う生活必需品の物価高騰など、国民生活への悪影響は拡大するばかりだ。燃料を求め国内のガソリンスタンドに並ぶ長い車列の光景は、今や日常茶飯になった感がある。
スリランカ中央銀行のウィーラシンハ総裁は先だって「インフレ率は30%前後。変動が激しい食料品やエネルギー価格を含むヘッドラインインフレ率は、今後数カ月で40%程度にハネ上がる」と述べた。
3月末には反政府デモの一部が暴徒化、政府は全土に非常事態宣言を発令した。激しいデモを受け中国と太いパイプを持つラジャパクサ首相(元大統領)は9日に辞任。代わって就任したウィクラマシンハ首相が25日、財務相を兼任するなど内閣の大幅刷新による事態打開を目指す。だが、状況が好転する気配は乏しい。