ソロモン諸島はこのほど、中国と安全保障協定を締結した。3年前、台湾と断交し中国と国交を結んだソロモン諸島の対中傾斜は深まるばかりだ。懸念されるのは、太平洋の西半分を自国の影響圏に置きたい中国の太平洋戦略にソロモン諸島が組み込まれることと、中国の警察顧問団による現地訓練が始まることで民主化活動家たちの弾圧が激化することだ。(池永達夫)
中国外務省は19日、「ソロモン諸島と安全保障協定を締結した」と発表した。協定の中身は明らかにされていないが、事前に流出した協定草案には、ソロモン諸島が中国軍の派遣や艦船の寄港を認めるなど、高度な軍事協力が盛り込まれていた。
中国は3年前、ソロモン諸島と国交締結後、直ちに首都ホニアラがあるガダルカナル島の北に位置するツラギ島の租借に動いている。その尖兵役を担ったのが中国国営企業の中国森田企業集団で、石油精製や経済特区建設を名目にツラギ島の75年に及ぶ独占開発権を得た。しかも75年後も更新可能とされていることから、事実上、永久租借に近い。
ツラギ島は面積約2平方キロメートル、人口約1200人の小島だが、中国がここに拠点を構えた最大の理由は天然の深海港を擁していることにある。港湾を整備すれば石油精製のための大型タンカーを横着けできるだけでなく、軍艦船の寄港が可能となる。
中国の一帯一路構想の特質は、経済開発と安全保障が絡んだ軍事拠点の確保が一体となっていることだ。
南太平洋に伸びた一帯一路構想も、インフラ投資と経済援助で政治的影響力を強めながら、軍事拠点化を着実に進めている。
とりわけソロモン諸島は、日本の小笠原諸島やグアムを経てパプアニューギニアを結ぶ「第2列島線」に近く、米豪を結ぶ海上交通路(シーレーン)上に位置する要衝の島だ。中国が軍隊を持たないソロモン諸島で軍事拠点を持てば、ほぼ中国が自由に使えることを意味する。その目的は米豪を分断し将来、西太平洋を「中国の海」にするための拠点構築にある。
また同協定草案に盛り込まれていたのは、軍隊の派遣だけでなく警察の派遣もあった。
想起されるのはソロモン諸島の首都ホニアラで昨年末、ソガバレ首相退陣を求めた住民およそ千人の抗議活動が、チャイナタウン放火などの暴動に発展したことだ。国軍を持たないソロモン諸島政府はこの時、隣国の豪州とパプアニューギニア政府に支援を要請。空路で派遣された豪州治安部隊100人とパプアニューギニア兵士35人が鎮圧に動き、暴動は3日間で鎮静化した。
強力な警察力育成が必要不可欠と感じたソロモン諸島政府は、警察力パワー強化策を中国から得ようとしている。
その結末は目に見えている。ソロモン諸島における治安維持に関し中国のハードパワーおよび人的パワーを活用できるシステムが出来上がることで、強権統治の中国型の強力な警察組織が誕生するとともに、その力の矛先が民主化活動家たちに向けられる可能性が高くなる。現政権下では、いずれ民主派活動家たちへの弾圧が激化することになるのは必至だ。
ソロモン諸島にある中国大使館の微博アカウントによると、中国の警察顧問団は先月14日に本格的研修を開始し、中国が持ち込んだ武器や装備の使い方をはじめ、暴動鎮圧のための技術やテクニックをソロモン諸島警官に教え込んでいる。
南太平洋の地政学的要衝にあるソロモン諸島が、安全保障面で米豪を分断する中国の橋頭堡(きょうとうほ)となり、内政で中国から指導された警察が「厳しい反体制派狩り」へ動くことが懸念される。