圧倒的優位保つマルコス氏
野党のロブレド氏も存在感
5月9日のフィリピン大統領選に向け選挙キャンペーンが激化する中、有力候補が固まってきた。選挙ではドゥテルテ政権が進めてきた麻薬戦争や汚職対策の是非が争点となっているが、ドゥテルテ大統領が後継候補をまだ指名しておらず、依然として流動的な状態にある。その中でも突出した支持を集めているのが独裁政権で知られる元大統領の息子であるマルコス元上院議員で、野党のロブレド副大統領がこれを追う形となっている。
(マニラ・福島純一)
複数の世論調査で50~60%と、圧倒的な支持を獲得しているマルコス元上院議員。フィリピンの政界に君臨するマルコス一族の子息という名声だけでなく、ドゥテルテ氏の長女でダバオ市長であるサラ・ドゥテルテ副大統領候補とペアを組んでいることも、その人気に拍車を掛ける結果となっている。
しかし、脱税問題で複数の立候補資格剥奪の申し立てがされているほか、マルコス家に対する遺産相続税問題などの爆弾も抱えている。また、公開討論を執拗に避ける姿勢は、姉のアイミー・マルコス上院議員からも苦言が呈されるなど、「弱腰のお坊ちゃま」というイメージも付きまとう。最大与党・PDPラバンのクシ総裁派から公式候補として公認され大きな後押しとなったが、ドゥテルテ氏は後継候補に関して沈黙を守っており、不安材料となっている。
野党候補で最も支持を集めているロブレド氏は、前回の副大統領選でマルコス氏に僅差で勝利を果たすなど、マルコス氏とは因縁の関係にある。
元は人権派弁護士だったが、アキノ政権下で内務自治長官だった夫のジェシー・ロブレド氏が航空機事故で死去したことから、夫の意志を継いで政界入りを決意。副大統領という立場にありながら麻薬戦争における超法規的殺人を批判するなど、ドゥテルテ氏との対立を深め、閣僚職から追放された経緯がある。
世論調査では常に2位を維持してマルコス氏を追走し、マニラ首都圏で開催された選挙集会で13万人を動員して注目を集めるなど、野党の最有力候補となっている。
ドゥテルテ氏が後継候補を指名しない中、じわじわとドゥテルテ派の支持を集めているのがマニラ市長のモレノ氏だ。当初は与党に対立的な姿勢だったが、ドゥテルテ氏の政策の引き継ぎを強調するなど、大統領候補の中では中立的な立場に移行した。
モレノ氏はこれまでに、前回の大統領選でドゥテルテ氏の当選に大きな影響を及ぼしたボランティア団体から正式に支持を受けたほか、SNSを中心にドゥテルテ氏を応援し政権発足後に政権入りしたインフルエンサーのモカ・ウソン氏も支持を表明。行き場を失ったドゥテルテ支持者の支持を広げることに成功している。もしドゥテルテ氏が後継候補に指名すれば一発逆転の可能性もありそうだ。
パッキャオ上院議員は世界的なボクシング選手として圧倒的な知名度を誇るが、大統領選においてはいまいち存在感を発揮できていない。最大与党のPDPラバンに所属していながら、汚職問題をめぐるドゥテルテ氏との確執などを引き金に、同党のクシ総裁との対立が表面化して別派閥を形成するなど、党の公式大統領候補には指名されなかった経緯がある。有力4候補の中ではいずれの世論調査でも下位に甘んじている状況だが、貧困層からは根強い人気がある。
とはいえ、フィリピンの大統領選における世論調査の結果は、実際の選挙で覆されることが多いことでも知られており、前回の大統領選では世論調査で振るわなかったドゥテルテ氏が圧倒的な得票数で当選を果たしている。今後ドゥテルテ氏の後継指名により勢力図が大きく塗り替えられる可能性もあり、大統領選をめぐる混戦模様はギリギリまで続くと予測される。