インドネシアの資源開発に「待った」

中国が海底油田に食指
ナトゥナ諸島に覇権志向鮮明
中国がインドネシアの資源開発に「待った」をかけてきた。インドネシアはカリマンタン島北西の自国領ナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)で、昨年7月から海底油田・天然ガスの掘削調査を進めていた。中国は南シナ海のほぼ全域を取り囲む独自境界線「九段線」を主張し、インドネシアの掘削調査が中国の権益を侵しているというのだ。東アジアにおける北の尖閣、南のナトゥナと、中国の覇権志向が鮮明になってきた。
(池永達夫)

ジャカルタで2021年4月24日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議で、演説するインドネシアのジョコ大統領(AFP時事)

ナトゥナ諸島近海は好漁場として知られ、この海域で中国漁船がたびたび違法操業してきた。

2010年と13年には同海域で中国漁船がインドネシアに拿捕(だほ)されたため、中国は人民解放軍の艦船を派遣して漁船を奪還したことがある。また、中国漁船が同国の海警船を伴いEEZの中で違法操業してきた経緯もある。

同諸島の主な産業は漁業だが、EEZ末端の東ナトゥナガス田には世界最大級の天然ガスの埋蔵量があり、周辺には海底油田への期待もかかる。中国は、牛の舌のように南シナ海に伸びている「九段線」を「歴史的権利」として、本命の天然ガス・石油資源へ食指を伸ばそうとしている。

ただ「九段線」に対する国際的認知度は極めて低い。

南シナ海の係争地域の地図2

海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は16年、「九段線」に国際法上の根拠がないと認定した。

またインドネシアは20年5月、南シナ海のほぼ全域に主権や管轄権を持つという「九段線」を拒否する書簡を国連に送付。南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンやベトナム、マレーシアの3カ国も、これに同調し書簡を送った。さらに米豪がこれに続き、同年9月には英独仏が連名で同様の書簡を送っている。

これに対し中国は「ただの紙きれ」だと無視を決め込んだまま、力こそが法だとばかりに衣の下の鎧(よろい)を見せるようになってきた。

ナトゥナ諸島EEZでのインドネシア掘削調査では、周辺で中国海警船と見られる目撃情報も確認されている。

このため、インドネシアは中国がナトゥナ諸島周辺の実効支配を目論(もくろ)んでいると判断、防衛体制強化に動いている。16年には、レーダーを備えた監視施設を大ナトゥナ島のラナイ軍基地に併設。翌年には周辺海域を「北ナトゥナ海」に呼称を変更した。また20年1月には、同基地に軍艦8隻と戦闘機4機を配備し、ナトゥナ諸島の駐留兵力を約2000人から4000人へと倍増させている。さらに同諸島空軍基地の滑走路を拡張し、戦闘機を増やすほか、潜水艦基地も建設する計画だ。

それでも圧倒的軍事力を持つ中国に比べれば蟷螂(とうろう)の斧(おの)でしかなく、個別撃破を狙う中国の連衡策に対し、米国を軸とした横の連携で中国包囲網を構築する合従策が願われる。

ただ、地政学上の要衝であるインドネシアは、東西冷戦時代からの非同盟運動のリーダーとして大国間で天秤(てんびん)外交を展開し、なるべく有利な条件を引き出すことで国益を確保してきた。今でも中国とは深い経済関係を維持しながら、米露ともそつなく付き合う全方位外交をとっている。そうした歴史的経緯から脱却できるかが焦点となる。

なお、中国が一方的に領有権を主張し、人民解放軍や海警局の力を後ろ盾に既成事実を積み上げ実効支配を目論む構図は、日本の尖閣諸島をめぐる日中対立構造と相関をなす。近年、中国海警船による尖閣諸島周辺の領海侵犯は恒常化している。東アジアの北の尖閣、南のナトゥナを見るだけでも、中国の覇権志向は鮮明に読み取れる。

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