
米マイクロソフトがケニアに10億㌦(約1600億円)規模のデータセンターを建設する計画が頓挫している。ケニアの電力網と財政が、巨大テクノロジー企業の要求に応えられる状況にないことが判明したためだ。今回の事案は、アフリカの「デジタル主権」の問題をも浮かび上がらせている。(長野康彦)
計画はバイデン前米政権が仲介したもので、2024年5月、マイクロソフトとアラブ首長国連邦(UAE)の政府系人工知能(AI)関連企業「G42」が組み、ケニアの地熱資源を活用したデータセンターを整備する構想として発表された。東アフリカのAI開発の足掛かりとし、同地域への中国の影響力拡大を抑える狙いもあった。
マイクロソフト側は、巨額投資に対するデータセンターの稼働率を保証するため、政府機関などが毎年一定量、クラウドやAIの処理能力を購入することをケニア政府に求めた。しかしこれは将来にわたって国家財政を縛ることになり、財務省は承認を見送った。さらに根本的な問題として、計画されたデータセンターはケニアの送電網の総容量の約3分の1を単独で消費する規模であることが判明した。ルト大統領自身が「あの施設を動かすには、国の半分の電力を止めなければならない」と認めている。
ケニアの計画頓挫の背景には、アフリカ大陸全体が抱える構造的な問題がある。アフリカで生成されるデータの85~95%は大陸外で処理されており、米国のクラウド法や中国の国家情報法の適用範囲に置かれている。つまりアフリカ市民のデータが、当事者の知らないところで外国の法律に基づきアクセスされ得る状態にある。
インフラの所有構造も同様だ。アフリカの海底インターネットケーブルの95%は外国資本が握る。データセンターの誘致も、土地と電力と水を提供しながら、収集されたデータと利益は先進国へ流出するという構図から抜け出せていない。
研究者たちはこの状況を「デジタル植民地主義」と呼ぶ。かつて土地と資源が収奪されたように、今はデータとアルゴリズムが収奪されているという見立てだ。アフリカ各国の指導者たちは「デジタル主権か経済成長か」という2択を迫られており、外資を拒めばインフラ整備が遅れ、受け入れれば依存が深まるジレンマの中にいる。
欧米への依存を警戒するアフリカの開発者たちが向かっている先が、中国製のAIモデルだ。ウガンダで話される31の言語に対応する言語モデル「サンフラワーLLM」を構築する際、開発者はグーグルでもオープンAIでもなく、中国のアリババクラウドが開発したオープンソースモデル「クウェン3」を選んだ。この選択はアフリカ大陸全体で共通するトレンドになりつつある。ディープシーク(深度求索)、クウェン、キミといった中国系モデルは無償で公開されており、米国製モデルと比べて圧倒的にコストパフォーマンスに優れている。
だが、中国製モデルの広範な採用は、ソフトウエアの深部に中国の政治的・文化的前提を埋め込む「インフラ植民地主義」のリスクをはらむとの指摘も出ている。欧米依存から抜け出しても、今度は中国依存に陥るという新たなジレンマを抱えてしまう。
こうした状況に対し、アフリカ発の草の根的な動きも生まれている。「Masakhane(マサカーネ)」はアフリカ30カ国約1000人の研究者が参加する自然言語処理(NLP)コミュニティーで、アフリカ言語に対応したオープンソースのAIツールを構築している。マサカーネとはズールー語で「私たちは共に築く」を意味する。少数の巨大テック企業によりAIやアルゴリズムが人々の思考や社会インフラをコントロールする「アルゴリズム植民地主義」を、アフリカ人自身の手で防ごうとする動きとして注目されている。
専門家の間では、アフリカ各国が地域として連携し、共同でデジタルインフラを整備することが望ましいという声が多い。しかし政府間の信頼構築が進まず、各国がバラバラに外資誘致を競い合っているのが現状だ。






