トップ国際アフリカ「日本に黒人奴隷」が物議 信長の家臣「弥助」めぐる歴史捏造

「日本に黒人奴隷」が物議 信長の家臣「弥助」めぐる歴史捏造

米ワシントンの国立アメリカ歴史博物館のアフリカ系奴隷に 関する展示=2008年11月19日(UPI)

日本の戦国時代に、アフリカ人を奴隷として使用する習慣があったかのような言説が物議を醸している。フランス発のゲームやイギリス人作家の書籍による影響で、今後、虚言から世界中に広まった「従軍慰安婦」問題のようになる危うさをはらんでいる。(長野康彦)

戦国時代、イエズス会の宣教師ヴァリニャーノが来日した際、引き連れてきた黒人奴隷がいた。ヴァリニャーノが信長に謁見(えっけん)した際、召し使いとして同伴していた彼を信長が気に入り、交渉の末、譲り受けて「弥助(やすけ)」と名付け、家臣とした。弥助は現在のモザンビーク出身の人物とされる。

「弥助」は学校の歴史教科書に出てくるわけでもなく、国民の認知度はそれほど高くはない。だが、弥助を「研究」し、その存在を世界に広めた人物がいる。日本大学准教授で英国人のトーマス・ロックリー氏だ。

同氏は弥助に関する著書を数冊発行しており、その中で戦国時代の日本について「アフリカ人奴隷を使うという流行が始まったようだ」と記述している。日本の歴史上、アフリカ人を召し入れたのは信長のケースが特別なだけであって、しかもそれは奴隷としてではなく、一人間としての扱いだった。

これまで奴隷としての扱いしか受けたことがなかった弥助が、日本という異国の地で時の権力者によって召され、服を着せられ、人間らしい扱いを受けた。大出世である。本能寺の変では信長を守るため明智光秀軍と勇敢に戦うが最後は捕縛され、日本人ではないという理由から光秀は彼を助命、その後の消息は不明となっている。

ロックリー氏の甚だしい事実誤認、あるいは妄想、あるいは意図的なおとしめの可能性から、日本史に関する誤った認識が世界に広まるのは看過できない問題である。

参議院の浜田聡議員は7月11日、ロックリーを巡って文部科学省に対し、「想像で本を書き、内容を史実として世界に広め、作り物の歴史を世界の真実にしてしまう」といった懸念や、フランスのゲーム会社UBIが今年11月に発売を予定している「アサシン クリード シャドウズ」に主人公として「弥助」が登場することから、日本の歴史が歪(ゆが)められるとして発売中止を求めるオンライン署名が10万人に迫るなどしている現状を問いただしたところ、同省は、「公序良俗に反する内容が疑われる場合は慎重な対応が求められる」と回答した。

この「アサシン クリード」は暗殺者をテーマとしたシリーズ物のゲームで、これで歴史が学べると言われるほど史実に忠実なゲームとして人気を博している。欧米などにファンが多い。

黒人奴隷貿易は、16~18世紀にかけてスペイン、ポルトガル、オランダ、イギリス、フランスなどの国家的事業として行われ、1500万人とも言われるアフリカ黒人が南北米、西インド諸島に送られ奴隷として使役された。

特にイギリスは奴隷貿易で巨万の富を得た。翻って日本には奴隷制度はない。豊臣秀吉はキリスト教宣教師が日本人を奴隷として海外に売り飛ばしたことを知り激怒して禁教にした。売り飛ばされた日本人奴隷は50万人とも言われている。

七つの海を支配し、世界中に植民地を持ち、「太陽の沈まぬ国」として富貴を謳歌(おうか)したその大英帝国に大打撃を与えたのが大日本帝国である。日本は戦争では負けたが、植民地解放という戦争目的は達成し、英国は多大な権益を失った。そうした歴史的背景から根底に反日感情を持つ英国人がいても不思議ではない。

日本をおとしめようとする言説が広がる前に、日本政府は早期に正確な情報発信で歴史的事実を世界に伝えなければならない。政府はこの問題を注視し、「日本が黒人奴隷を使用していた」などといううその歴史の拡散を阻止する責務がある。

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