サッカーのワールドカップ(W杯)が6月11日、開幕する。2026年大会は米国、カナダ、メキシコの3カ国共催で、出場国は従来の32から48に拡大した。試合数も104試合に増え、7月19日の決勝まで39日間にわたり、全16都市で熱戦が繰り広げられる。男子W杯が3カ国共催で行われるのは国際サッカー連盟(FIFA)史上初めてで、過去最大規模の大会となる。

今大会で飛躍を狙うのが開催国である米国とカナダだ。北米でのW杯開催は、米国にとって1994年以来となる。前回の米国大会は、その後のメジャーリーグサッカー(MLS)創設につながり、米国サッカーの発展に大きな転機をもたらした。今回は、競技人口やファン層の拡大だけでなく、代表チームがどこまで世界の強豪に迫れるかが問われる大会となる。
米国代表は、W杯の歴史では1930年のウルグアイ大会で準決勝進出したのが最高成績だ。その後は長く世界の中心から遠ざかったが、90年代以降は常連国としての地位を固め、2002年の日韓大会ではベスト8に進出した。
一方、18年ロシア大会では予選敗退という屈辱を味わい、22年カタール大会では決勝トーナメント1回戦で敗退している。今大会は、自国開催の追い風を受けて、02年以来の準々決勝以上を狙う。
米国代表チームの中心は、クリスチャン・プリシッチ選手(ACミラン)だ。欧州で経験を積む同選手は、攻撃の象徴的存在で、米国の成績はその出来に大きく左右される。タイラー・アダムス選手(ボーンマス)、ウェストン・マッケニー選手(ユベントス)、ジョバンニ・レイナ選手(ボルシアMG)らも名を連ね、若さと経験を兼ね備えた陣容となった。米国は1次リーグD組でパラグアイ、オーストラリア、トルコと対戦する。
一方、カナダにとって今大会は、代表史を塗り替える好機だ。カナダは1986年メキシコ大会でW杯に初出場したが、無得点で3戦全敗。36年ぶりに出場した2022年カタール大会ではアルフォンソ・デイビス選手(バイエルン)がカナダ男子代表史上初のW杯得点を挙げたものの、チームは再び3連敗に終わり、いまだW杯での勝利はない。
それでも、現在のカナダ代表は過去最強との呼び声が高い。主将のデイビス選手に加え、得点力のあるジョナサン・デイビッド選手(ユベントス)、経験豊富なサイル・ラリン選手(マジョルカ)らを擁する。24年のコパ・アメリカ大会では準決勝に進出し、国際舞台での自信も深めている。負傷明けで大会に臨むデイビス選手のコンディションが、チームの1次リーグ突破の可能性を左右するとされる。
カナダは1次リーグB組で、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カタール、スイスと対戦する。初勝利を挙げ、さらに初の決勝トーナメント進出を果たせるかが最大の焦点となる。地元の声援を力にどこまで対抗できるかが注目される。
米国とカナダは、これまでW杯で主役を担ってきた国ではない。しかし、今大会では開催国として過去最大の注目を集めている。米国は「サッカー大国」への脱皮を、カナダはW杯初勝利と新時代の到来を目指す。北中米で開催される今大会は、欧州や中南米の強豪国だけでなく、北米の開催国自身がどこまで大会への熱狂を高められるかも重要な見どころの一つだ。
メキシコ・最高成績目指すアギーレ監督 ホームの追い風、巨額の投資

共同開催国であるメキシコは、世界のサッカー界に不滅の足跡を再び刻むことになる。1970年、86年に続き、世界で初となる「3度目の開催国」という至高の栄誉を手にしたのだ。
「今大会の目標は、地元での史上最高成績に並ぶこと」。メキシコ代表のハビエル・アギーレ監督は国際サッカー連盟(FIFA)公式ページで明言している。86年大会にメキシコ代表として出場、5試合でプレーし、奮闘するもベスト8に終わった。70年大会の最高成績に並んだが、その上を目指すチャンスが地元大会で巡ってきた。
引退後、2001年にメキシコ代表監督に就任、02年W杯日韓共催大会で16強入り、10年南アフリカ大会では決勝トーナメント進出を果たした。日本代表監督にも就任したことがある(14年)。立場は改めてメキシコ代表監督に変わった。「私は幸運だ」。緊張感の中にも再び地元でW杯に臨む感動は隠せない。まさに40年ぶりの夢舞台だ。
メキシコのFIFAランキングは15位。下位の韓国、チェコ、南アフリカと1次リーグ・グループAで対戦する。トーナメント決勝への1位通過が予想されるものの油断はできない。ただ今年、メキシコは国際親善試合でパナマ、ボリビア、アイスランドを下し、調子を上げてポルトガルやベルギーと対戦して引き分けた。欧州強豪と伍(ご)する上、ホームの声援が追い風となろう。
メキシコでサッカーは単なるスポーツの枠を完全に超えており、国民のアイデンティティーであり、生きる情熱そのものである。エスタディオ・アステカをはじめとする各開催都市のスタジアムでは、世界基準の環境を整えるために巨額の投資が行われた。近代化改修や周辺の交通インフラ整備が急ピッチで進められてきた。
ホストを務めるメキシコ、米国、カナダは貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を形成する一大経済ブロックでもある。巨大スポーツイベントを契機に、考え抜かれた地域連携、最先端のインフラ、そして円滑な物流ネットワークが、広大な北米大陸での分散開催という前例のない挑戦を可能にした。この緊密な経済的連帯は、大会期間中に地域一帯へ過去最大規模の莫大(ばくだい)な経済波及効果をもたらすと試算されている。
ピッチ上に目を移せば、今大会は「最も懐かしさを誘う大会」として歴史に記憶されるだろう。長年世界のトップに君臨し、サッカー界のアイコンとして時代を牽引(けんいん)してきた数々の偉大な世界的レジェンドたちが、これが最後の国際舞台になると公言、あるいは目されているからだ。例えばポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナルド選手、アルゼンチン代表のメッシ選手、ブラジル代表のネイマール選手など。一つの黄金時代が終焉(しゅうえん)を迎えようとする中、新時代の主役を狙う若き新星たちの台頭も著しい。
現在のメキシコをはじめとする各国代表チームは、百戦錬磨のベテランが持つ貴重な経験値と、無限の可能性を秘めた次世代のスター候補たちの躍動感をいかに高次元で融合させるかという、非常に難しい戦術的舵(かじ)取りを迫られている。
加えて、今大会の「48カ国・12グループ制+ラウンド32新設」の過酷な新フォーマットと長距離移動を勝ち抜き、最終的にファイナルの舞台へと駒を進めるのはどの国か。戦術の成熟度と総合力が試される北中米の熱い夏が、今始まる。
(米国・カナダ=ワシントン川瀬裕也、メキシコ=ハンソニー・オヘダ)







