
年末から通貨暴落と物価高が重なりイランにおいて反体制デモが激化した。トランプ米大統領は軍事介入を示唆したものの、その後は慎重な姿勢に転じた。
先行きは不透明だが、イラン体制が動揺した背景に、第2次トランプ政権発足以来の圧力戦略が寄与したことは間違いない。
バイデン前政権の中東政策に対する保守派の批判は、イエメンの武装組織フーシ派のテロ指定解除やイランの石油収入の解放を通じて、イランとその代理勢力を勢いづかせたというものだ。これらの政策が結果としてイスラム組織ハマスの軍事行動を後押しし、2023年10月のイスラエル攻撃の背景になったと指摘される。
トランプ氏は発足後、イランへの「最大限の圧力」を復活させ、原油輸出を標的にした制裁を強化し、イラン経済基盤を弱体化させた。また、紅海で商船襲撃を続けるフーシ派への攻撃。6月にはイスラエルの攻撃に呼応する形で、地下核施設を空爆し、イランの脆弱(ぜいじゃく)性を露呈させた。こうした圧力の高まりに加え、米国によるベネズエラへの攻撃や、トランプ氏の強硬発言も抗議デモを勢いづかせたとみられている。
その一方で、イラン側が拘束したデモ参加者の処刑を中止したとされ、トランプ氏はいったん軍事介入を見送る姿勢を示した。しかし、原子力空母「エーブラハム・リンカーン」を中核とする空母打撃群が中東へ移動中と報じられており、今後の展開は予断を許さない。
トランプ氏は12日、イランと取引を続ける国に対し25%の関税を課す方針を示した。これはイランへの圧力強化を狙った措置だが、同時に中国への牽制(けんせい)という側面もある。現在、中国はイランから輸送される原油の8割超を実質的に引き受けていると報じられており、制裁下のイラン経済を支える最大の買い手となっているためだ。
トランプ氏による昨年5月の中東歴訪でも、中国との地政学的競争が意識されていた。トランプ氏は湾岸諸国との協力強化を打ち出したが、そこには米半導体大手エヌビディアのフアン最高経営責任者(CEO)らも同行した。その背景にはAI分野での対中競争がある。
中東歴訪中の5月16日のフォックスニュースのインタビューでは、「中国は湾岸諸国を強く誘っていた。湾岸の石油を確保できれば、中国のエネルギー問題は永遠に解決するからだ」とした上で、「湾岸諸国は中国の側に行こうとしていた。だが、もうそうはならない」と述べ、中国を強く意識した外交であることを示した。
ガザ情勢では、イスラエルとハマスが第1段階の合意にこぎ着けた。トランプ政権はイスラエルの軍事支援を強化し、ハマスを支援するイランへの包囲網を構築するなど、ハマスの弱体化を促した。これが、ハマスが譲歩に応じる背景になった。
しかし、その後の協議は停滞している。人質解放や停戦の枠組みを巡る隔たりは依然大きく、和平プロセスは前進していない。
「ピースメーカー(平和の構築者)」を自称するトランプ氏は、ウクライナでも和平合意を模索している。欧米による安全の保証について「前進」が伝えられるが、ロシアは妥協しない姿勢を崩していない。
ウクライナは戦況の悪化に加え、長期戦による消耗が深刻化している。一方、ロシアは広大な国土と豊富な資源を背景に、制裁下でも一定の自立性を保っている。これが、イランとは異なり、制裁による締め上げを難しくしている。
ウクライナが一定の妥協を迫られるのは避け難いとしても、ロシアからどこまで譲歩を引き出せるのか。まさに「ディールメーカー」の手腕が問われる局面にある。
(アメリカ総局長・山崎洋介)
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