
「キューバは期限切れの薬を押し付け、中国とロシアは技術も教育もよこさなかった。イランが持ち込んだのは恐怖と武器だけだ」
本紙にこう語ったのは、ベネズエラ国旗を手にホワイトハウス前で、トランプ米政権によるベネズエラ攻撃への支持を示していたカルロス・ビバスさん(36)だ。独裁下で治安崩壊と経済破綻に見舞われた祖国を離れ、4年前に米国に来た。
ベネズエラでは20年以上にわたる社会主義独裁の下、中国、ロシア、イラン、キューバなど反米勢力の拠点となっていた。麻薬対策を掲げた今回の軍事攻撃の背後には、同国に浸透した外国勢力の一掃という、より大きな戦略目的がある。
昨年12月に発表された国家安全保障戦略では、「西半球での優位性回復」を掲げ、「トランプ版モンロー主義」を明確にした。1823年のモンロー主義が欧州の干渉拒否を軸としたのに対し、「トランプ版」は、米国の「裏庭」から中国、ロシアなどを排除することを主眼とする。
トランプ氏はベネズエラを自ら「運営」すると述べ、石油権益の掌握を進めている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、米国の海上封鎖によりベネズエラの原油は中国やキューバ向けが途絶え、現在は米国向けに限定して輸送されている。
これは中国にとって痛手だ。中国は融資の返済を原油で受け取る契約を結び、油田・鉱山権益やインフラ施設の運営にも関与してきた。未返済の貸付は約120億㌦に上るとされる。
第1次トランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏は、ワシントン・タイムズ紙にマドゥロ政権の崩壊は「中国にとって屈辱的な敗北だ」と語り、「もはやベネズエラを米国内の情報活動や西半球での影響力工作の前進基地として使えなくなる」と指摘した。
米国の戦略が成否を分けるのは、新政府が安定し国民の意思を反映する体制を築けるかどうかだ。トランプ氏がロドリゲス暫定大統領を支持したのは、イラク戦争後のように旧体制を急速に排除して国家機能が崩壊する事態を避けるためだ。
今後について、共和党重鎮のニュート・ギングリッチ元下院議員は、「油断は禁物」だと警告する。マドゥロ氏が去った後も、暴力と利権の構造は残る。こうした中、米軍を投入すれば「終わりなき戦争」に巻き込まれるとし、ベネズエラ人自身の統治を支え続けるべきだとした。
ベネズエラ情勢を巡る緊張が続く中、トランプ氏のグリーンランドへの軍事攻撃の可能性を示唆する発言は、欧州との間に新たな火種を生んでいる。トランプ氏が「中国やロシアの艦艇がグリーンランドの近くに来ている」と主張するのに対し、デンマーク側は「グリーンランドの近くにはいない」と否定する。
しかし、デンマークの情報機関は中露のグリーンランド浸透に警戒感を示す。昨年の報告書で、「中国の北極での長期戦略にはグリーンランドが含まれる」と明記した。ロシアも周辺監視を強化しており、中露協力が北極圏で現実化しつつあると警告した。
第1期トランプ政権時に国家安全保障会議(NSC)の高官だったフレッド・フライツ氏は保守系メディア「ニュースマックス」で「デンマークはグリーンランドの防衛、開発、住民支援を十分に担う能力がなく、トランプ氏はその事実を指摘しただけだ」と述べた。
トランプ氏がグリーンランドの領有を支持しない欧州諸国に関税を課すと表明したことで緊張はさらに高まった。こうした圧力が、グリーンランドの安全保障を巡る建設的な議論を促す「問題提起」となるのか、それとも米欧の溝を深め、結果として中露を利するのか。トランプ版モンロー主義が構想通りに進むのか、その行方が問われている。
(アメリカ総局長・山崎洋介)
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