
トランプ米政権は昨年末から和平外交を一気に加速させた。フロリダ州の邸宅「マールアラーゴ」で行われたウクライナのゼレンスキー大統領との会談では、ウクライナ戦争の出口を探る協議が行われ、続くイスラエルのネタニヤフ首相との会談では中東の停戦プロセスを後押しする姿勢を示した。これは11月の中間選挙を前に外交課題で早期に一定の成果を上げ、国内課題への対応に集中したいという政権の意図を反映したものだ。(アメリカ総局長・山崎洋介)
ゼレンスキー氏との会談後の記者会見でトランプ氏は「戦争終結へ多くの進展を遂げた」と強調する一方で、領土問題など核心部分に課題が残ると認めた。欧米の支援が細り、ウクライナの疲弊が深まる一方で、戦場ではロシアが優勢を保っており、こうした力学が和平交渉を一段と難しくしている。
それでも、停戦に向けた協議のチャンネル自体は保たれており、部分的な合意を積み上げる余地は残る。厳しい状況の中でも、外交的な突破口を探る努力は続いている。
こうした和平外交の推進は、単なる選挙対策にとどまらない。背後には、米国の資源を対中競争へ再配分するという、より大きな戦略的意図がある。
ヘグセス国防長官は先月の演説で、米国の防衛戦略の柱の一つとして「力による中国抑止」を明確に掲げた。欧州や中東での過剰な関与を見直し、同盟国により大きな負担を求める姿勢を示した。
この方針は、政権が先月発表した「国家安全保障戦略」にも明確に反映されている。そこでは中国による「台湾奪取を阻止するため米国と同盟国の能力を強化する」と明記。日本列島からフィリピンまで続く第1列島線について、「いかなる場所でも侵略を阻止できる軍事力を構築する」とし、日本と韓国に防衛費の増額を求める必要性を強調した。
トランプ政権が同盟国に防衛負担の増額を求めるのは、単なる「負担の押し付け」ではない。米国自身の力を温存しつつ、全体としての抑止力を高めるという戦略的発想がある。実際、トランプ政権は議会に国防費の大幅な増額を求めるとともに、次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」や、海軍力の大幅拡充を目指す「ゴールデンフリート」など、米国自身の抑止力を底上げする大型計画を次々と打ち出している。
対中競争は軍事だけではない。経済・技術の分野でも、米国は依存構造の見直しを急いでいる。米中は昨年10月末の韓国での首脳会談で、中国によるレアアース(希土類)輸出規制強化の導入延期で合意したが、これは一時的な緩和にすぎない。
トランプ政権はレアアースをはじめとする重要鉱物の供給網で中国依存を減らすため、具体的な措置を相次いで進めてきた。政権はレアアースを生産する国内企業へ出資や豪州企業との協力など、供給網の多角化を進めている。こうした動きは、対中競争が軍事だけでなく経済・技術の領域でも長期戦になることを見据えたものだ。
一方、中国経済は不動産不況や地方財政の悪化など不安要因を抱え、米国と全面対立する余裕は乏しいとみられる。4月の訪中を控えるトランプ氏も中間選挙を意識し、貿易不均衡の是正や合成麻薬フェンタニル対策などで短期的成果を狙う展開が予想される。
海外の紛争終結など外交に力を入れてきたトランプ氏だが、国内の有権者の関心は必ずしも外交に向いておらず、むしろ生活実感の改善こそが求められている。
米経済は第3四半期の国内総生産(GDP)が年率4・3%増、株価も最高値圏と、指標上は力強さを示している。人工知能(AI)投資促進などの政策効果が関税の悪影響を上回り、当初一部専門家が予想していたような不況には陥らなかった。一方で、CBSの調査では国民の75%が経済を「普通以下」と評価しており、生活実感は依然として改善していない。
自身の支持層「MAGA(マガ)」からはトランプ氏が海外に力を入れ過ぎており、物価など国内問題をもっと優先すべきだとの不満も漏れ始めている。中間選挙で共和党が敗北すれば、政権の政策遂行に制約が強まることになる。特に下院を民主党に奪われた場合、トランプ氏に対する弾劾の可能性も取り沙汰されており、政治的圧力は一層強まるとの見方もある。
和平外交で成果を上げるだけでなく、国内有権者の生活実感を改善できるかが、政権の行方を決める。
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