
「世界の肺」とも呼ばれるアマゾン熱帯雨林。その主要な玄関口であり、アマゾン川河口に位置するブラジル北部ベレンで行われた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は、米国政府が代表団を送らなかったことも影響し、化石燃料の段階的廃止が合意文書に盛り込まれないなど、気候変動対策の行方に不安を残した。一方で、日本が掲げる政策や技術は、より現実的な選択肢として国際的に注目されつつある。(サンパウロ綾村 悟)
COP30は、本来であればアマゾンでの開催という象徴性も相まって、気候変動対策における新たなマイルストーン(節目)となることが期待されていた。だが今回の会議は、トランプ米大統領が今年1月にパリ協定からの再離脱方針を示し、米政府が代表団を派遣しなかったことで、これまで米国が担ってきた役割の大きさを改めて浮かび上がらせる場となった。
米国は過去、資金・技術の面だけでなく、2014年の米中気候合意を通じた「パリ協定」(15年)の実現など、気候外交において主導的役割を果たしてきた国である。太陽光や風力など再生可能エネルギーの市場拡大を支えた基礎技術の多くにも米国の研究機関や企業が深く関わってきた。世界2位の温室効果ガス排出国である米国の不在は、先進国と途上国の主張の相違をより際立たせる結果となった。
焦点の一つだった化石燃料の「段階的廃止」の文言は、最終的に合意文書には盛り込まれなかった。その背景には、先進国が求める「迅速な脱炭素」と、途上国が求める「脱炭素と経済成長の両立」という構造的な対立がある。欧米諸国が「再エネ移行」と「脱炭素」を強く訴える一方、インドやブラジル、アフリカ諸国などグローバルサウスは、インフラ整備や貧困削減を優先する立場から、急激な化石燃料依存の縮小には慎重姿勢を崩さなかった。発展途上国にとって、安価で安定したエネルギー供給は依然として不可欠であり、その重さは国際議論でも明確に示された。
こうした状況の中で、現実的な気候政策として注目されているのが日本のアプローチだ。日本は長年、「トランジション(移行)」という概念を重視し、既存インフラを活用しながら段階的かつ確実な排出削減を目指す政策と技術を磨いてきた。石原宏高環境相は21日、COP30で「日本の気候変動対策イニシアティブ2025」を公表し、自然共生、市場メカニズムと新技術活用、排出量管理と透明性向上の3本柱の下、世界の脱炭素化に貢献していく姿勢を示した。23年度の日本の温室効果ガス排出量は13年度比で27・1%減となり、確実な削減を続けている。
削減を支えたのは、既存の火力発電などを生かしつつ二酸化炭素(CO2)排出を可能な限り減らすという日本独自のアプローチだ。石炭火力(超々臨界圧=USC)や高効率ガス火力は世界最高水準の熱効率を誇り、途上国の排出削減にも直接寄与し得る技術として注目されている。加えて、日本は既存の発電設備に「アンモニア」や「水素」を混焼する技術を確立しつつあり、設備を廃棄することなくCO2排出を大幅に減らすことが可能となる。将来的には、こうした混焼技術を通じて実質的なゼロエミッション(排出ゼロ)化を目指す構想も進む。
排出後のCO2への対処として、日本がリードするCCS(二酸化炭素回収・貯留)技術も国際的関心を集める。日本の重工メーカーは排ガスからCO2を分離・回収する化学吸収プロセスで世界トップクラスの実績を持ち、これから工業化が進むグローバルサウスに欠かせない技術基盤となる可能性が高い。
さらに日本は、こうした技術移転を制度面で支える枠組みとして、東南アジア諸国連合(ASEAN)と共に「AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)」を推進している。AZECは特定の手法や再エネ比率を一律に求めるのではなく、各国の事情に合わせて再エネ、省エネ、水素、アンモニア、原子力を含む多様な選択肢の中から「最適解」を模索する協力枠組みだ。その柔軟性は、南米やアフリカの発展途上国にも共有され得る価値観といえる。
日本には、長年培ってきた技術力と経済合理性に基づいた政策、そして自然と共生する「里山」文化など独自の背景がある。米国不在の混迷が深まる国際気候外交の中、日本が独自の立ち位置を確立し、橋渡し役としての存在感を高める好機でもある。






