
連立が変わる自民党・日本維新の会政権を樹立したばかりの高市早苗首相と、2度の暗殺未遂に遭いながら2期目当選で奇跡の復権を果たしたトランプ米大統領との日米首脳会談は成功裏に終わった。会談後、両首脳が向かったのは米海軍横須賀基地の原子力空母「ジョージ・ワシントン」だった。
かつて「不沈空母」発言が物議を醸したことがある。1983年1月、訪米した中曽根康弘首相が米紙ワシントン・ポストのインタビューに答えた。その内容が「始動する日米運命共同体路線/日本列島『不沈空母』化への道」の見出しで報じられたものだ。米ソ軍拡競争が熾烈(しれつ)を極めた冷戦期、日本と目と鼻の先の極東ソ連軍の脅威が高まり、米国で歓迎されたものの日本国内ではイデオロギー対立を背景にした世論の批判を受けた。
その状況下でも中曽根氏が断行したのが「防衛費GNP(国民総生産)1%枠」の撤廃。一歩踏み出した日本の防衛努力を認めたレーガン大統領と、「ロンヤス関係」と呼ばれた首脳関係を築いた。その後、世界は東欧民主化、ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ統一、ソ連崩壊を目撃することになる。
時代は変わり、日本初の女性宰相となる高市首相が国会で指名され、トランプ氏はいち早く祝意を表明したが、中国からはとんと聞かない。「ジャパン・イズ・バック」(日本は戻ってきた)と記された帽子を高市氏がトランプ氏に贈ったのは意味深長である。
首相が首脳会談でも所信表明演説でも強調した外交の柱である「自由で開かれたインド太平洋」は、安倍晋三元首相が提唱したもので、両首脳は凶弾に倒れた安倍氏への哀惜の念を示し、首相は安倍氏のパターを大統領に贈呈した。初対面となる両首脳を信頼の絆で繋(つな)いだのは安倍氏と同氏の保守路線であることは明瞭だった。
「世界で最も偉大な同盟」と両首脳は日米同盟を表現したが、その本質は世界最強の軍事力を背景とする経済繁栄だ。太平洋の両岸に位置する日米の海軍と海上自衛隊が共同で海の守りに当たり、自由な海運貿易を維持する。当たり前のように見えるが、「水と安全はただ」ではない。
極東は軍事的緊張を生む中国、ロシア、北朝鮮の存在もあり、とりわけ軍拡著しい中国の台湾統一への野心、南シナ海や東シナ海での力による現状変更、太平洋への海洋進出は懸念されるところだ。米国の衰えが指摘される昨今、トランプ政権は同盟国にGDP(国内総生産)比防衛費、相互関税率を通して軍事的、経済的負担を求めている。これに高市氏は正面から向き合い、ヘリでトランプ氏と同行、空母での〝特別演出〟となった。
安倍氏暗殺で混乱した日本の政情は自維連立政権樹立による高市政権でリセットされた。本格的な政権の始動はこれからであり荒波は避けられないが、再び日米繁栄の不沈空母の出航となることを期待したい。





