韓国の李在明大統領が就任後初めての外遊先に日本を選び、その足で訪米したことを巡り、「日本重視」「(いい意味で)異例」との高評価が上がっている。だが、それは関税・安保を巡るトランプ米大統領の矛先を和らげるため、「日韓融和」を演出した李氏流の「実用外交」だった可能性もある。(ソウル上田勇実)

石破茂首相との首脳会談で「未来志向」を確認し、日本滞在中、ぎこちないほど終始笑顔を絶やさなかった李氏は、「日本側が李氏に抱いていた『反日主義者』というイメージを変えることにある程度成功した」(李元徳・韓国国民大学教授)ようだ。会談直後の首相の支持率も急上昇し、「石破おろし」の小休止というおまけまで付いてきた。
▼米側は消極的
韓国歴代大統領が就任後に米国より先に日本を訪問したのは初めてだったため、「日本を重視している」(杉山晋輔・元駐米大使)との見方が出た。だが、一方で李氏の真意がどこにあるのか訝(いぶか)しがる向きは少なくない。
韓国政府系シンクタンクの元トップは、李氏訪日前にこう指摘していた。
「関税や安全保障など難題を突き付けられる可能性が高い訪米を前に、先に関税交渉を妥結させた日本の経験を学ぶのはもちろん、日本との融和を土産にトランプ氏が自分に向けてくる矛先を和らげようという思惑も働いているのではないか」

実際、李氏はホワイトハウスでトランプ氏と会談した際、「あらかじめ日本(の首相)と会ってトランプ大統領の心配する問題を整理した」とわざわざ述べている。北東アジア政策で対中包囲網の強化に神経を尖(とが)らせるトランプ氏が望む日米韓連携に問題なしとアピールしてみせたわけだ。
それが奏功したかは定かでないが、李氏はトランプ氏から法外な関税を突き付けられることなく、一安心した模様だ。
ただ、日米韓連携の最大の目的は、北朝鮮・中国の脅威に対抗することにあるはず。韓国側の要請で作成されたという首脳会談後の日韓共同文書には「インド・太平洋地域を含む域内の戦略的変化」や「北朝鮮の核・ミサイル脅威」への対応、「拉致問題解決に向けた取り組み」などの言葉が並んだが、これも李氏にとってはトランプ氏を安心させる「アリバイ文書」の性格さえ帯びている。

北朝鮮の軍事的脅威が増し、米中が激しい覇権争いをする中、李氏は6月就任後に対北政策を主導する関係閣僚に南北融和派を据え、来月3日の中国抗日戦争勝利80年式典には自分の息がかかった与党所属の国会議長の派遣を決めた。そんな李氏の、日韓・日米韓連携の本気度に疑いの目が向かない方が無理だろう。
そもそも今回の李氏訪米に米国側は乗り気でなかったようだ。李氏訪日に同行するはずだった趙顕外相が訪日を飛ばして急遽(きゅうきょ)渡米したことなどを巡り「トランプ氏が会談中止を言い出した」との見方が浮上。会談は実現したが、李氏は歴代韓国大統領が訪米時に宿泊してきた迎賓館「ブレアハウス」に宿泊できず、出迎えなどの儀典が格下扱いで日程も手薄だった。「冷遇された」(韓国メディア)のは明らかだ。
会談直前にはトランプ氏がSNSで「粛清や革命のように見える今の韓国の状況下でわれわれはビジネスができない」と述べ、「内乱清算」を掲げて尹錫悦前大統領に司法の裁きを向けさせる李氏に不満をぶつけた。トランプ氏にとって李氏は「招かれざる客」だったとの見方が広がっている。
今回の日韓・米韓首脳会談について韓国のある外交評論家はこう述べる。
「仮にトランプ氏との会談で成果がなかった場合、下手に歴史認識問題などで日本側の態度を硬化させれば、初の外遊で“2連敗”を喫し、支持率に響く。そこで李氏はまず国内左派の要求があった歴史認識問題を共同文書から引っ込めてまで、日本との首脳会談を丸く収めたかったのではないか」
李氏にこうした認識があったとすれば、石破首相は米韓会談失敗に備えた「保険」を李氏に提供してあげたと言えなくもない。






