トップ国際【連載】米露ウが描くウクライナ「戦後」(下)欧米は「力の外交」回復すべし プーチン氏に停戦の考えなし

【連載】米露ウが描くウクライナ「戦後」(下)欧米は「力の外交」回復すべし プーチン氏に停戦の考えなし

大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で会談するトランプ米大統領(右)とロシアのプーチン大統領=2019年6月(AFP時事)

ロシアのプーチン大統領は2022年3月18日、モスクワで実施されたクリミア半島併合8年目の関連イベントで、ウクライナに侵攻した「特別軍事作戦」について「ウクライナ内の親ロシア系住民をジェノサイド(集団虐殺)から解放するため」と説明した。

22年2月24日には、「ウクライナ東部の親露派が住むドネツク、ルハンスク両“人民共和国”ではナチスたちによるジェノサイドが行われているから、ロシア軍を派遣して救済しなければならない」と訴えた。

ウクライナ侵攻を宣言するプーチン氏には聖戦の騎士のような高揚感が漂っていた。3年半が過ぎた今でもプーチン氏の使命感に大きな揺れは見られない。

プーチン氏は5歳の時に洗礼を受けた正教徒だ。集会などで聖書を引用したとしても、取り立てて不思議ではない。ただ、ウクライナに武力侵攻し、多くの民間人を殺害している時、「愛の福音書」と呼ばれる「ヨハネによる福音書」の聖句を引用できる人間だ。プーチン氏の歪(ゆが)んだ宗教性はウクライナ戦争にも影を落としている。

モスクワ生まれの映画監督、イリヤ・フルジャノフスキー氏はオーストリアの日刊紙スタンダードとのインタビューで、「ロシアは何でも起こり得る国だ。論理的な国ではないからだ」と指摘、プーチン氏がクレムリン前にキエフ大公、聖ウラジーミルの記念碑を建てたことについて、「ウクライナもロシアに属していることを意味する。プーチンは自身を聖ウラジーミルの生まれ変わりと信じている。この論理は西洋では理解できないだろうが、ロシアでは普通だ」と説明した。

米アラスカ州で15日に実施された米露首脳会談は、ウクライナのゼレンスキー大統領とプーチン氏の首脳会談の実現、そして和平条約後のウクライナの「安全の保証」問題がテーマとなった。

ウクライナは、ロシアが関与する「安全の保証」について、懐疑心を払拭できない。「ブダペスト覚書」の教訓があるからだ。ウクライナは1994年12月、ソ連時代の核兵器を放棄する代わりに、米英と共にロシアがウクライナの安全を保証することを明記した覚書に署名したが、ロシアはその後、クリミア半島を占領し、現在はウクライナ東部・南部を侵略している。つまり、ウクライナにとってロシアが関与する「安全の保証」に意味はない。

アラスカでの会談でプーチン氏は、「停戦」ではなく、「包括的和平条約」の締結について協議すべきだと提案したという。通常、和平条約の締結までには数カ月から数年の外交交渉が必要となる。すなわち、ロシアはその間、ウクライナで戦争を継続できる。換言すれば、プーチン氏は現時点で停戦をする考えが全くないことを間接的に示唆した。アラスカで赤絨毯(じゅうたん)を敷いて歓迎したトランプ氏はプーチン氏の狙いを読み取れず、その思惑にはまった。

会談後、ロシアのラブロフ外相が「ロシア抜きのウクライナの安全の保証はあり得ない」と指摘した。「2週間以内のプーチン氏とゼレンスキー氏の首脳会談」という合意にも、肝心のプーチン氏があまり関心を示さなくなった。米露首脳会談の「一定の進展」(トランプ氏)はその直後から後退を余儀なくされている。

ロシアは「力」しか理解できない。プーチン氏との首脳会談の実現を最大の目標としたトランプ氏はプーチン氏に完全にしてやられた。ロシアに対して欧米は「力の外交」を回復すべきであり、融和的な姿勢は相手を利するだけだ。これが米露首脳会談の教訓であり、今後の欧米が目指すべき指針ではないか。

(ウィーン小川敏)

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