●戦争と停戦は噛み合わない
2022年2月24日にロシアはウクライナに侵攻し今も戦争が続いている。アメリカのトランプ大統領がウクライナとロシアの戦争の停戦交渉を行うが停戦の兆しが見えていない。2025年6月13日にイスラエルはイランの核施設・革命防衛隊などへの先制攻撃を行った。イランは弾道ミサイルで報復したがトランプ大統領の停戦交渉により12日間で停止した。だがイスラエルとイランの対立は今も続き戦争再開の兆しが見えている。
●停戦は次の戦争の準備に使われている
トランプ大統領は大統領に就任してから政治・経済・軍事で積極的に外交を行い主導権を獲得した。トランプ大統領の外交は良くも悪くも世界に与えた影響が大きくて日本も利益と不利益が混在する。例えばトランプ大統領が日本に求めている軍事費増額は日本の国防強化・自衛隊員の待遇改善に至るから良い影響になり、日米貿易に関する関税では日本が不利益になる要求をしている。
トランプ大統領から見ればウクライナとロシアの戦争を停止して平和を求めている。だが国際社会は自国は戦争しないで代理国を使い仮想敵国と戦争させる間接的な戦争が基本。このためロシアを仮想敵国とするヨーロッパとバイデン政権時のアメリカはウクライナへの軍事支援でロシアと間接的な戦争をしていた。
日本は国際社会の流れを見てウクライナを支援したが結果的に間接的な戦争になった。このため当時の欧米のように意図的に間接的な戦争をしていないが、結果的にロシア軍の弱体化に至ったので日本は利益を得た。このためウクライナとロシアの戦争長期化は仮想敵国ロシアを弱体化させるので軍事支援が調整されている。このため公にはトランプ大統領の停戦交渉は歓迎されても積極的に外交で支援する国はない。
■トランプ氏、ウクライナ問題でプーチン氏に「非常に不満」 制裁も示唆
https://www.afpbb.com/articles/-/3587264
ロシアのプーチン大統領から見ればトランプ大統領の停戦交渉は大歓迎。何故ならウクライナへの軍事支援が減少するか停止するとウクライナ軍が弱体化する。このためプーチン大統領はトランプ大統領と交渉することが目的になるから時間稼ぎになる。だがトランプ大統領はプーチン大統領の時間稼ぎに不満を持ちロシアへの経済制裁を示唆するに至った。
■イラン大統領、IAEAとの協力停止を最終承認
https://www.afpbb.com/articles/-/3586795?cx_part=search
イランはイスラエル軍による核開発施設・革命防衛隊への攻撃が的確なので損害に驚いている。イスラエル軍は戦闘機をイラン上空まで到達させ制空権を獲得した。それに対して革命防衛隊の戦闘機隊の存在は消し飛び地対空ミサイルはイスラエル軍戦闘機を撃破できなかった。さらにトランプ大統領はB2ステルス爆撃機を投入しイランの核開発施設を攻撃した。これでアメリカの参戦かと思われたがイランに対して停戦交渉の脅しに使われた。
イスラエルはこのまま進行すれば勝利できると思われたがトランプ大統領の圧力で停戦に応じた。結果的に敗北を免れたのはイラン。だからイランは強気を見せながらトランプ大統領の停戦交渉に応じた。だがイランは時間稼ぎが目的の停戦であり損害回復を行うためだった。
実際にイランはトランプ大統領に従うのではなくIAEAとの協力関係を停止して核開発を続けることを暗にトランプ大統領に示唆した。だがイランはトランプ大統領と交渉する素振りを見せるだけで戦争再開の準備を進めている。
●制限戦争をしているトランプ大統領
トランプ大統領はB2ステルス爆撃機を投入しても参戦しなかった。これはトランプ大統領が制限戦争をしているためで、イランに譲歩させることが目的であり戦争の勝利ではない。だからトランプ大統領は勝てる戦争を最初からしていない。このためイスラエルは迷惑でありイランには歓迎すべき介入になった。
3000年の戦争史から見ると戦争目的は全面戦争・限定戦争・制限戦争の3区分。全面戦争は部族間抗争・内戦で見られ政治の破断。アメリカは南北戦争と第二次世界大戦でドイツと日本に対して実行した戦争。限定戦争は国家間の基本的な戦争であり政治の延長として戦争がある。だから限定戦争では戦争も政治の一つ。残る制限戦争はアメリカが第二次世界大戦で全面戦争を実行した反省から生まれた机上の空論である戦争。
【戦争目的】
・全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
・限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
・制限戦争(Controlled war):政治が軍事に介入する
【戦争の傾向】
・全面戦争:総力戦になりやすい
・限定戦争:総力戦が困難
・制限戦争:軍事的不合理を克服して勝利を求めるほど総力戦に近くなる
【戦争の結果】
・全面戦争:勝利者がある戦争(敵国の滅亡)
・限定戦争:勝利者がある戦争(政治の延長としての戦争)
・制限戦争:勝利者なき戦争
第二次世界大戦でアメリカはドイツと日本に対して全面戦争を実行した。これは敵国政権の消滅だからドイツと日本が徹底抗戦を選ぶことになる。アメリカは第二次世界大戦を悲惨にしたことを理解したらしく、戦後の朝鮮戦争・ベトナム戦争では机上の空論である制限戦争を選び勝てる戦争を勝てないものにした。アメリカが何故限定戦争ではなく机上の空論である制限戦争を選んだのかは不明だが、第二次世界大戦の悲惨さを反省したことは間違いないが、結果的にアメリカが良くも悪くも世界を巻き込んでいる。
【制限戦争論:キッシンジャー(アメリカ)】
「交渉と戦闘は段階的に推進すべき。戦略の目的は敵政治意志の譲歩であって敵軍の撃破ではない」
【限定戦争:国家戦略=外交×軍事】
政権を担保するのは軍事。軍事力を撃破すれば敵政権は降伏するか外交交渉に応じる。
【制限戦争:外交と軍事の二人三脚】
【限定戦争:外交と軍事は勝利を目指し単独で走る】
アメリカは今もキッシンジャーの制限戦争を崇拝し勝てる戦争を勝てないものにしている。何故制限戦争では勝てないのか? 理由は制限戦争論は軍事的合理性からかけ離れているからだ。基本的に国家は軍事力を背景に外交を行うから軍事力を失うと戦争継続はできない。このため軍事力を失った政権は降伏するか外交交渉に応じる。だから限定戦争は敵軍撃破が目的であり政治の延長になる。
だが制限戦争は敵政権の政治的譲歩が目的だから、敵国が譲歩するように自軍の攻撃を調整する。これが朝鮮戦争・ベトナム戦争で適用されたので勝利なき戦争に至った。簡単に言えば制限戦争は外交と軍事の二人三脚だから簡単には走れない。それに対して限定戦争は外交と軍事は単独で走る。このため軍事は外交の影響を受けないから早く走れる。何故なら軍事作戦が外交から干渉と拘束を受けると勝利できない。
Pax paritur bello.(パークス・パリトゥル・ベッロー)
「平和は戦争から生まれる」
トランプ大統領は平和を求めるが、古代ローマ帝国の時代から“平和は戦争から生まれる”ことを理解していない。第二次世界大戦後から国家が敵国を征服・併合したり政権を転覆させるような全面戦争は消滅した。その代わりに戦争目的を限定した限定戦争が80回近く発生した。これらの戦争は講和条約はなく停戦・休戦で次の戦争を準備している。
3000年の戦争史を見るとアメリカの全面戦争・制限戦争は異質。だが国際社会は古代から時の強国が都合の良い平和のルールを強制する。隣国は都合の良い平和を受け入れるだけで次の戦争に備えている。これが現実だから今の強国である現状維持派のアメリカに国際社会が従うだけ。同時に現状に不満を持ち変えたい国は現状打破派として対立する。
今の現状打破派はロシア・中国・北朝鮮・イランなどだから、現状維持派の国々と対立するのは自然な流れ。それなのにトランプ大統領は戦争から平和を生み出すことを捨てて終わりなき戦争と勝利なき戦争を選んでいる。
●日本は制限戦争を悪用すべき
トランプ大統領の外交には日本に都合が良い政策と悪い政策がある。こうなると日本は都合の良い政策を悪用して国防を強化することが最善。皮肉なことにトランプ大統領がウクライナとロシアの戦争を勝利なき戦争へ導いている。これはウクライナとロシアの戦争の長期化になるから、日本周辺のロシア軍はウクライナの戦場に投入されるから日本には好都合。
イスラエルとイランの戦争が再開されたら最悪の場合はイランがホルムズ海峡を封鎖する。この場合は日本の国益を損なうからアメリカ海軍と海上自衛隊を連携させて海上交通路の防衛を行うべきだ。この場合は海上自衛隊がインド洋まで継続的に活動するから、結果的に台湾防衛になるから日本の国益になる。
さらにトランプ大統領は日本に国防強化を求めているから自衛隊員の待遇改善も行える一石二鳥。問題は日本の政治家の多くが国防軽視であること。だがトランプ大統領は日本の親中派を嫌っているから外圧で親中派を潰す可能性がある。悲しいことに日本国民では変えられないことがトランプ大統領の外圧で日本の国益になる可能性がある。政治が結果的に良ければトランプ大統領の外圧は日本国内の未来を守る。制限戦争はアメリカには勝利なき戦争をもたらすが、日本には良い結果をもたらすだろう。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)





