
日本と共同で小型衛星製造計画
ロケットや人工衛星の打ち上げ、さらに月面探査など多岐にわたる宇宙産業にタイも積極的に関与している。その開発手法は日米など西側諸国だけでなく中国とも関係を構築し、技術支援を受けるなどして新プロジェクトに参加するといった両天秤(てんびん)に掛けたものだ。今のところ、この両天秤手法の問題は表明化していないものの、米中関係が深刻な軋轢(あつれき)を生じるようになると難局を迎えることになると懸念される。こうした中、日タイの産官学が連携した小型衛星製造プロジェクトも始動した。(池永達夫)
タイの宇宙産業は60年前、米国からリモートセンシング技術が移転されたことでスタートした。リモートセンシング技術とは、遠隔地からのセンサーを使った感知技術を言う。その後、環境監視や資源管理のための衛星データ活用が進み、衛星通信受信センターを設立することで、東南アジアで初めて衛星データ受信が可能になったのもタイだった。
また1986年には、日タイ両政府の協力の下、日本の海洋観測衛星を利用したリモートセンシングの共同研究が始まった。その後、2008年にはタイ初の地球観測衛星が打ち上げられ、23年には同2号衛星が活躍するようになった。これらの衛星は、農業や災害管理、都市計画のために活用されており、タイが独自の宇宙データを活用できる体制を支えている。
また昨年12月から、日本の気象衛星「ひまわり」を活用した大気汚染対策プロジェクトも動きだしている。
これは大気汚染の原因となっている山火事や農村で野焼きの発生状況をリアルタイムで位置など正確に監視し、延焼を防いだり野焼きを減らすため農家の指導や啓蒙(けいもう)活動に役立てようというものだ。
さらに近年、急速に発展している光衛星通信分野でも、タイは光通信を媒介する中継衛星3基を活用し、他の衛星から送られてきたデータを地上局に大容量転送する取り組みを始め年内の実現を目指している。
画期的なのは日タイの産官学が連携しての、小型衛星製造プロジェクトが動きだしたことだ。タイでは海上保安や、洪水対策など衛星需要が高まる中、輸入に頼ってきたコスト負担が課題だった。このプロジェクトには宇宙航空研究開発機構(JAXA)の他、日系企業2社が参画し来年中の初号機完成を目指す。
ただその一方、タイは昨年4月に中国主導の「国際月面研究ステーション(ILRS)」計画の協力覚書を締結。米日だけに依存しない両天秤方式による宇宙産業育成方針を取っている。タイは昨春、中国との低軌道衛星ブロードバンドインターネットの検証試験も実施している。
この両天秤方式は国家の存続に関わる安全保障でも同じで、米国の同盟国であるタイは米国や日本などと東南アジア最大の軍事演習「コブラゴールド」を毎年開催しつつも、中国の潜水艦や揚陸艦を購入したり中国との海軍共同軍事演習も実施している。
しかし、こうした両陣営とバランスを取りながら協力関係を維持し、自国の宇宙産業の発展や安全保障を担保する戦略は両陣営の和平が維持されていてこそ機能するもので、両陣営の軋轢が高じてくると、その狭間(はざま)にあるタイは横波を受けることになる。具体的には両陣営から自分たちの高度技術や軍事機密が相手陣営に流れるのではとの懸念が生じることから、どちらの陣営を取るのか二者択一を迫られる可能性が高いからだ。





