近年、中国とロシアは米国に対する共闘のパートナーとして緊密な関係を築いている。両国は国際舞台での協力を通じ、米国の覇権に対抗する姿勢を明確にしている。しかし、同時に中露間には潜在的な対立の要因が存在し、完全な同盟関係とは言い難い。本稿では、中露が対米共闘のパートナーである理由と、対立国としての側面を、地政学、経済、歴史的背景の観点から論理的に分析する。

●対米共闘の背景
【地政学的対抗意識】
中露が米国に対抗する最大の理由は、両国が米国の単極覇権を脅威と捉えている点にある。米国は冷戦終結後、国際秩序の主導的役割を担い、NATOの拡大やアジア太平洋地域での軍事プレゼンス強化を通じて、中露の戦略的空間を圧迫してきた。ロシアは、ウクライナ問題や東欧でのNATO拡大を、自身の安全保障に対する直接的脅威とみなす。一方、中国は、南シナ海や台湾問題での米国の介入を、領土保全と地域的影響力への挑戦と捉える。この共通の脅威認識が、中露を共闘へと駆り立てる。
【経済的相互補完性】
中露は経済面でも相互依存を深めている。ロシアはエネルギー資源(石油・天然ガス)の主要供給国であり、中国はこれを大量に消費する経済大国である。西側諸国の制裁によりロシアが欧米市場から孤立する中、中国はロシアにとって不可欠な輸出先となった。2023年には両国の貿易額が過去最高を記録し、人民元での決済比率も増加している。この経済的結びつきは、米国の金融覇権(ドル支配)に対抗する動機ともなり、BRICSや上海協力機構(SCO)を通じた非ドル経済圏の構築を後押ししている。
【国際秩序の再編意図】
中露は、米国主導の自由主義的国際秩序に代わる多極的秩序の構築を目指す。中国の「一帯一路」構想やロシアのユーラシア経済連合(EAEU)は、両国の地域的影響力を拡大し、西側主導のルールに対抗する枠組みである。国連やG20などの場で、両国はしばしば共同歩調をとり、グローバル・サウスの支持を集めようとする。このような戦略的協調は、対米共闘の基盤を形成する。
●中露間の対立要因
【地政学的競合】
中露は共闘する一方で、中央アジアや北極圏などの地域で地政学的競合を抱える。中央アジアは、歴史的にロシアの勢力圏であったが、中国の「一帯一路」による経済的進出がロシアの影響力を相対的に低下させている。上海協力機構では協力をアピールするものの、両国の利害は完全に一致しない。また、北極圏のエネルギー資源や航路を巡る競争も潜在的対立点である。中国の経済力とロシアの軍事力が交錯するこれらの地域では、長期的な緊張が予想される。
【経済的非対称性】
中露の経済関係は非対称的である。中国の経済規模(GDPはロシアの約10倍)は、ロシアにとって脅威となり得る。ロシアはエネルギー輸出に依存する一方、中国は製造業や技術力で優位に立つ。この力の不均衡は、ロシアに「中国への従属」への懸念を生む。特に、ロシア極東地域での中国の経済的影響力拡大は、地元住民やロシア政府内で警戒感を高めている。両国の経済的相互依存は共闘の基盤であるが、同時に不信の種でもある。
【歴史的・文化的溝】
中露間には、19世紀の不平等条約(愛琿条約など)や1960年代の国境紛争(珍宝島事件)に由来する歴史的確執が存在する。これらの記憶は、特にロシア側で中国への不信感を根深く残す。また、両国のナショナリズムは、互いの領土的野心に対する警戒心を助長する。ロシアのスラブ中心主義と中国の漢民族中心主義は、文化的統合を困難にし、長期的な信頼関係の構築を阻害する。
【共闘と対立の均衡】
中露の関係は、対米共闘という戦略的必要性によって現時点では結びつけられているが、両国の利害は完全に一致しない。米国が中露に対する圧力を緩めれば、両国の潜在的対立が表面化する可能性は高い。特に、中国の経済的・軍事的台頭が続けば、ロシアは自国の地位低下を恐れ、関係を見直すかもしれない。一方で、米国の対中露政策が強硬である限り、両国は共闘を維持する強い動機を持つ。
●中ロ関係は対米共闘と歴史的・文化的溝
中露が対米共闘のパートナーである理由は、米国への地政学的対抗意識、経済的相互補完性、国際秩序再編の共通目標にある。しかし、中央アジアや北極圏での競合、経済的非対称性、歴史的・文化的溝は、両国を潜在的な対立国たらしめる。これらの要因は、中露関係が戦略的パートナーシップであると同時に、脆弱な均衡の上に成り立つものであることを示す。今後の国際情勢、特に米国の動向が、この複雑な関係の行方を決定するだろう。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)