
シリアのアフメド・アル=シャラア暫定大統領は3月29日、新政権を発足させた。現地のメディア報道によると、22人の閣僚の中には宗教的少数派の代表が含まれている。例えば、キリスト教徒のヒンド・カバワット氏が社会省を担当する。カバワット氏は、シリア指導部において初の女性閣僚となる。また、運輸相にはアラウィ派のジャルブ・バドル氏が就任し、ドルーズ派のアムジャド・バドル氏が農業省を率いるなど、少数派への配慮が見られる。
シャラア暫定大統領が率いるイスラム主義武装組織「ハヤート・タハリール・アル=シャーム(HTS)」の指導者のうち何人かは、新政権でも要職に留まった。アサド・アル=シェイバニ氏は引き続き外相を、マルハフ・アブ・カスラ氏は国防相を務める。また、これまで治安責任者だったアナス・ハッタブ氏は内相に就任した。前暫定政権で首相を務めたモハメド・アル=バシル氏は新政府ではエネルギー相を担当する。
バチカンニュースは同30日、カバワット氏の社会相任命について「西側諸国へのメッセージ」と大きく報道し、「ダマスカスが宗教的寛容と平等の原則を守る意向であることを示している」と評価している。新社会相に任命されたカバワット氏は1974年生まれ、米国ジョージ・メイソン大学の「世界宗教・外交・紛争解決センター」にて宗教間平和構築のディレクターを務めた経歴がある。また、ジュネーブにあるシリア交渉委員会(アサド政権に対抗するシリア反体制派組織)の副代表を務めた経験もある。
ちなみに、オーストリア国営放送のウェブサイトはシリア新政府の閣僚のうち3人はドイツとの深い関係を持っていると報じている。それによると、新たな保健相ムサブ・アル=アリ氏は、ドイツで医師として働き、「シリア人コミュニティ・ドイツ中央連盟」に所属していた。教育相のモハメド・アブドゥルラフマン・トゥルキ氏はライプツィヒ大学で学んだ。また、キリスト教徒のヒンド・カバワット氏は、過去にドイツ経済省と協力して女性の権利向上に取り組んでいたという。
シャラア暫定大統領は、新政府の首相を任命せず、自ら閣議を主導するとみられる。同暫定大統領は同29日、「新国家の建設は我々の共通の意志の表明である」と強調し、「責任と透明性」に基づいた新しい国家づくりを目指すと述べている。
HTSは昨年12月8日、半世紀以上を支配してきたアサド独裁政権を打倒し、ダマスカスの権力を掌握した。その後、議会と与党バース党を解散し、憲法を無効化した。シャラア氏は今年1月末、暫定大統領に就任し、3月中旬には新国家建設に向けた5年間の移行期間を定める声明に署名したばかりだ。
シャラア氏はアサド失脚後、分裂した国の再統合を呼び掛け、「全ての民族、宗派は等しく公平に扱われるべきだ」と表明してきたが、3月に入り、シリア北西部で暫定政府の治安部隊とアサド前政権派の武装勢力が武力衝突し、1000人以上の死者を出した。死者の多くはアラウィ派やキリスト者の少数派住民だったこともあって、国際的な非難を招いた。
シリア国民の大多数はイスラム教スンニ派だが、同国にはイスラム教少数派アラウィ派やキリスト教など多数の少数宗派が存在する。シャラア大統領自身はイスラム教スンニ派に属する。
なお、シリア北東部のクルド人勢力は、新たに発表されたシリア政府を拒否した。シリア北部・東部の自治行政(AANES)は3月30日、「この内閣はシリアの多様性を反映していない。12月に打倒されたアサド政権と同様、権力を一手に集中させている」と批判し、新政府の決定には従わない意向を示した。
クルド人勢力が支配する地域はシリア全土の約30%を占めている。わずか3週間前には、クルド主導のシリア民主軍(SDF)とダマスカスの指導部が、SDFを国家機関に完全統合することで合意していた。
参考までに、欧州連合(EU)は2月24日、シリア暫定政府によるアサド政権崩壊後の国家再建を支援するため、同国に対する制裁の一部、エネルギーや運輸、金融分野などを対象に経済制裁を緩和する。3月17日にブリュッセルで開催されたシリア支援国会合で、EUなどは計58億ユーロの資金を拠出すると表明するなど、シリアの新政権を支援する動きが次第に出てきている。