FBI 「広範なサイバー活動」
米国で中国系ハッカー集団による通信情報への大規模なスパイ行為が明らかにされている。トランプ次期大統領らも標的とされており、党派を超えて対応を求める声が高まっている。来年1月に発足するトランプ次期政権は、報復措置を含め、強硬な対応を取る見通しだ。(ワシントン山崎洋介)
この問題は、8月下旬に米メディアの報道により浮上。中国政府が支援しているとみられるハッカー集団「ソルト・タイフーン」が、米国などで政府・政治関係者を標的に、リアルタイムで電話の音声やテキストメッセージのデータを収集するなどスパイ活動を展開しているというものだ。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、ソルト・タイフーンは、トランプ氏やバンス次期副大統領の携帯電話への侵入も試みた。米政府は、同ハッカー集団が、大手のAT&Tやベライゾンなど米国内の通信会社少なくとも8社の通信システムに侵入したとしている。
この問題について米連邦捜査局(FBI)と国土安全保障省サイバー・インフラ安全局(CISA)は11月中旬に共同声明を発表し、調査により、中国政府が関係する同ハッカー集団が「広範なサイバースパイ活動を行っていることが明らかになった」と指摘。これにより、政府・政治関係者の通信データが盗まれたほか、ハッカーが米国の法執行機関が使う監視システムに侵入し、監視対象者についての情報をも入手したという。
こうした深刻な中国の工作活動の疑いが浮上したことは、米議会に衝撃を与えており、超党派で対応を求める声が高まっている。
上院情報委員会委員長のマーク・ワーナー氏(民主党)は、ワシントン・ポスト紙に「わが国の歴史上最悪の通信ハッキングだ」と述べた。さらに、ソルト・タイフーンによる大規模なスパイ行為に比べれば、コロニアル・パイプラインなどに対するロシア系ハッカー集団によるサイバー攻撃が「子供の遊びのように見える」とも強調した。
同氏によると、これまでFBIが特定したソルト・タイフーンによる被害者は150人未満だが、数百万人分の電話やテキストメッセージが傍受されている可能性があり、被害は大幅に拡大する恐れがあるという。また、通信ネットワークは依然としてハッカーの侵入を許しており、こうしたスパイ活動を防止するには、何万もの通信機器の交換が必要になる可能性があるとした。
一方、トランプ次期政権の主要ポストに指名されている共和党の対中強硬派議員らは、中国により強い圧力をかける必要性を強調している。
トランプ氏が大統領補佐官(国家安保担当)に指名したマイク・ウォルツ下院議員は15日、CBSニュースの番組に出演し、この問題に対して「はるかに強い姿勢で臨む必要がある」と訴えた。同氏は「われわれは攻勢に転じる必要がある。データの盗難やスパイを続ける民間企業や国家主体に対して、より高いコストを課す必要がある」と述べ、次期政権における報復措置を含めた強硬な対応を示唆した。
また、トランプ氏が国務長官に指名したマルコ・ルビオ上院議員は、このハッキングについて「米国だけでなく、世界の歴史上、最も衝撃的で広範囲にわたる通信システムへの侵入」だとその深刻さを指摘した。
専門家からも強い対応を求める声が上がっており、11日に上院で開かれた公聴会で証言した米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)の戦略技術プログラムの責任者であるジェームズ・ルイス氏は、「中国に対して『これは受け入れられない、あなた方はやり過ぎだ、もし止(や)めなければ、今すぐ行動を起こす』と伝える必要がある」と主張した。