トップ国際【フランス美術事情】米評価の仏画家作品が仏国宝に

【フランス美術事情】米評価の仏画家作品が仏国宝に

異色の硬派 印象派の画家・カイユボット オルセー美術館で展覧会

「ボート・パーティー」1977~1978 ギュスターヴ・カイユボット= Musee d’ Orsay

ゲッティ美術館とシカゴ美術館が協力

男性中心の世界描く

そもそも美術において人間を描く場合、女性には美が求められ、男性には力強さや権威が求められてきた。特に美に注目することの多い芸術の世界では、たとえばフランス革命を描いたドラクロワの「民衆を導く自由の女神」のように革命を扇動するのは女神である女性だった。

西洋絵画の背景にあるキリスト教では、聖母マリア信仰のように女性は聖霊的存在であり、癒やしや安らぎをもたらす存在として描かれた。逆に男性はルネサンス期のミケランジェロのように筋肉質の力強い男性を表現するのが普通で、ロダンの彫刻も同様な表現が一般的だった。

オルセー美術館は今回、男性モチーフが大半を占める印象派の芸術家の作品約100点を集めている。最近はジェンダーをテーマにした展覧会が増え、女性を男性の慰みの対象として描く作品は批判され、女性画家が描く作品の再評価が盛んに行われている。これを逆手にとって、男性を描き続けた印象派のギュスターヴ・カイユボットに焦点を当てた展覧会が行われている。

カイユボットが同性愛者だったかどうかは研究者の間でも不明だが、19世紀を生きた画家が、シルクハットとちょうネクタイをした『ボート・パーティー』(フランスで国宝認定)のエレガントなこぎ手は、不穏な男らしさを醸し出している。同作品はオルセー美術館が2022年に取得したもので、現在、印象派の画家の男性像に焦点を当てた展覧会(2025年1月19日まで)が始まっている。

同時代、印象派の旗手となったモネ、ルノワール、ドガは女性がモチーフの中心だったのに対してカイユボットの人物画の約70%はもっぱら男性を表現していた。ロサンゼルスのゲッティ美術館とシカゴ美術館の協力による今回の企画は、65点の絵画を含む約100点の作品を通じて、男性に焦点を当てたカイユボットの深層心理の探究を試みている。

19世紀末の芸術家の探究としてカイユボットが特異な存在だったことは確かだ。軍服製造会社の経営者で裁判官でもあった裕福で頭脳明晰な親に育てられた彼は、マクロン仏大統領も通ったパリのルイ=ル=グラン高校に通い、大学で法学の学位を取得し弁護士資格も得ていた。当時、ドガと交友があった。

カイユボットは、恵まれた環境に育ち、パリの富裕層が暮らす地区に生活し、産業革命による都市化の中で、自然に身に付いた都会の生活感、男性の孤独感が作品ににじみ出ている。これは今の時代にも通じるものだ。彼の作品はまた、35ミリフィルム一眼レフカメラの50㍉レンズで撮影したような画角の作品が多く、作品は人間の目で見る通りを絵にしたものだった。

彼は当時の帝展であるサロンで当時の労働者を描いた作品が拒否された不快な経験から、印象派の展覧会に積極的に参加し、財政支援もしたので、印象派の父と呼ばれたピサロはカイユボットを高く評価した。ただ、早世だったカイユボットは45歳で他界した。カイユボットの作品はアメリカの収集家によって集められ、彼がフランスで注目されだしたのは1950年代以降だった。

(安部雅延)

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