物理的スペース超え 変わる21世紀の都市芸術
問われる表現したいテーマ
パラダイムシフトは起きているか
今世紀に入り、美術作品を距離を持って鑑賞する展示スタイルから没入型展示が増える中、ストリートアートなど都市空間そのものが芸術の表現の場として開放され、同時にデジタル空間を通じて時空や物理的なスペースを超えた空間も表現の場になりつつある。
そんな芸術にとって大変革につながる状況を見据えた「付加、デジタル時代のアーバンアート」(7月1日まで)と題する展覧会がパリのグラン・パレ・イメルシフで開催中だ。同美術館は、グラン・パレ国立美術館に属し、デジタル展示の制作、運営、流通に特化した新しい没入型美術館で、バスチーユのオペラ座続きに新たに設置された。
同美術館の公式サイトには「ニューヨークの地下鉄からドローンで制作または撮影された絵画、2000年代以降に登場した大規模な壁画から、落書き破壊行為、壮絶な行為、再利用の最新動向まで、来場者はデジタル体験を通じて都市芸術のあらゆる側面を見事に発見する」と書いてある。
印象派の登場で職人文化に支えられた西洋美術は、個人の個性を重視した芸術に生まれ変わった19世紀後半から100年以上、公共の都市空間とデジタル空間が新たな発表の場となることで、芸術は大きな転換期に差し掛かっていることを物語る展覧会だ。
宗教、王侯貴族、ブルジョワが支えた芸術は、21世紀にどこに向かうのかは、いまだに見えていない。意外なことにストリートアートは政治や社会的メッセージ性が高く、デジタル空間もSNSによって多様なメッセージ交流が行われている。
果たして、この二つのツールが芸術の発展に貢献するのかは見定める必要があるが、没入型アートが人間と芸術の距離を縮めていることは確かといえそうだ。メッセージ性といえば言葉以外の訴求性の高い芸術が表現手段として選ばれていることも興味深い。
同展について美術館側は表現された作品群が「360度で表現されるこれらの都市芸術作品のスクリーンとして反響し、機能する」と書いている。ただ、これらの表現手段が過去と違うのは、500年前に制作されたダヴィンチの『モナリザ』を鑑賞するような時空を超えて永続性ではなく、一過性、即時性という特徴があることだ。
バンクシーの描いたストリートアートの作品はその典型で、本物は瓦礫(がれき)の壁や建物が取り壊されれば消える。一方でデジタル・アーティストはテクノロジーへの関心が高く、街中でポケモンのようなスペースインベーダーを探すのも、新たな芸術の可能性と言える。
しかし、あくまでクオリティーを追求する人間は、表現手段がどうであれ、心に残る奥深い作品を求めており、模倣や時流に流された軽薄作品は芸術とは認められない。つまり、問われるのは作品の表現したいテーマで、それも政治的メッセージは芸術にはふさわしいとは言えないということだろう。
(安部雅延)